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一般回線に接続できるテレビ電話(月刊ASCII 1987年12月号10) [月刊アスキー廃棄(スクラップ)]

特別レポートが「一般回線に接続できるテレビ電話」だった。
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結局テレビ電話は広まらなく、インターネットとスマホが登場してからだった。35年前の状況はどうだったか。当時の技術では難しいのは分かるが、固定電話でテレビ電話はそもそも使いにくくて無理だったのではないだろうか。スクラップして当時の状況を確かめてみる。
まずはあおり文からスクラップする。
 ソニー(株)と三菱電機(株)が、相次いでテレビ電話を発売した.テレビ電話とは言っても、動画像通信を可能にするテレビ付き電話ではない、一般の電話回線に接続して、モノクロの静止画像を1フレームずつ送信できる「静止画テレビ電話」である。当然だが,通信相手も同じ規格に基づいた電話を使わなければ、画像通信はできない.ソニーがNTTと共同開発した「みえてる」(NTTのフランド名は「テレフェース」)は、4万9800円という低価格を実現しているかわりに,電話機能を装備していない別にモジュラーコネクタ付きコンセントに対応した電話機が必要だ。三菱電機の「ルマホン」は、同社とその米国子会社Mitsubishi Electric Sales Americaが共同開発したもので,米国では昨年8月から販売している。価格は19万8000円と高いが,電話機能を装備している。同社では、ソニーと同様に電話機能を分離した低価格機種も開発中だ。しかし,ソニー/NTTと三菱電機とでは,通信方式が異なるため相互に画像通信ができない状態になっている。
 松下電器産業(株)や日本電気(株)が三菱電機と同じ通信方式で,シャープ(株)と三洋電機(株)が独自の通信方式で同様の製品を開発中で,年末商戦までには各社の静止画テレビ電話が出そろう予定だ。
うん。これはダメだ。無理やりすぎる。これでテレビ電話はない。売れるわけもない。規格が統一されていないのが問題ではない。それ以前の問題だ。この段階でスクラップする気が薄れてくるが、ダメになったものいわゆる黒歴史としてテレビ電話の記事をスクラップする。
I ニューメディアの間隙を突く静止画テレビ電話
 2~3年ほど前まで多用された「ニューメディア」という言葉は,現在では死語同然になっているが,静止画テレビ電話は,当時製品化されていれば,まさに次世代を担うニューメディア製品として位置付けられていただろう.1984年9月から,東京の武蔵野・三鷹地域でNTT(当時の電電公社)が開始した統合化デジタル・サ-ビス「INS(Information Network System)」が,CCITTの国際標準仕様である「ISDN*1(Integrated Service Digital Network)」へと名称が変わり,来年3月から,これに基づいた商用サービスが開始されようとしている現在では、アナログ電話回線で使用する静止画テレビ電話は,ニューメディア製品とは言えないのかもしれない.それでは,突如降って湧いたように出現した静止画テレビ電話を,われわれは,どのように受け止めればよいのだろうか.
 本稿では,基本原理や必要とされる技術などを中心に,静止画テレビ電話の全貌をレポートする.
*1 ISDN:来年3月から日本・米国・欧州で商用サービスが開始される統合デジタル網,現行の電話加入者線を前提としたサービスは,伝送速度64kbit/秒の回線(Bチャンネル)2本と,同16kbit/秒の回線(Dチャンネル)「本を,ユーザー端末とデジタル交換機との間で多重伝送させる計画だ。ちなみに,現行のアナログ回線では、モデムを使った場合でも9.6kbit/秒のデータ伝送能力しかない.Bチャンネルは,現在の回線交換サービスとして提供され,Dチャンネルはパケット通信にも利用できるようになっている.さらに,伝送速度が1.544Mbit/秒の「次群サービスが1989年から提供される予定.
ISDN懐かしい。ADSLの前にこれにお世話になった。NTTの人に工事に来てもらい高速のパソコン通信ができるようにしてもらったが、Windows95のときではなかったか。それならこの記事の8年後にやっとISDNを使い始めてということか。通信の高速化はモデム次第だった。
II “静止画”テレビ電話とは?
1 誕生までの背景
 視覚情報などを伝達・処理するサービスは,本来,非電話系サービスと呼ばれる.CAPTAINや文字放送,CATV,VAN(付加価値通信網),テレビ会議システム,ホームバスなどのニューメディア・サービスが,このジャンルに入る.聴覚サービスの電話に対して,文字・画像情報をサービス主体にしているのが,非電話系サービスの特徴だ。
 こうしたサービスは、1981年8月にNTT(当時の電電公社)が発表したINS構想に基づいている.INS構想は,現行のメタリック・ケーブルとアナログ交換機から構成される電話網を,光ファイバー・ケーブルとデジタル交換機に置き換えて,大容量の情報を効率よく伝達しようという次世代サービスの総称である.光ファイバー・ケーブルは,メタリック・ケーブルの約5000~2万3000倍の情報伝送能力を持っている.こうした伝送能力を利用すれば、1本の光ファイバー・ケーブルでも,大容量の情報を有する静止画や動画などを音声に加えて伝達できる.電話線は使っているが,伝達する情報は音声だけではない.それどころか,音声はほんの一部分でしかなくなる.まさに,情報の統合化である.そこで,既存の電話(音声)と区別するために,非電話系サービスという言葉が,INS構想の発表とともに作り出された(その後,INS構想は,武蔵野・三鷹地域での実験を経て,国際的な統一規格であるISDNへと,細部の見直しが図られる.現在では,ISDNという言葉を使うのが一般的である).
 人間が外界から得られる情報は,聴覚からが15~20%,視覚からが60~75%と言われる.統合デジタル・サービスが一般的になる1990年代には,聴覚から得られる情報は,全体の10%にも満たなくなるという予測数値も発表されている。CD-ROMやパーソナルコンピュータ通信の出現を待つまでもなく,視覚主体の情報ニーズが高まりつつあることは、数年前から一般的な共通認識になっている.
 静止画テレビ電話は、INS構想に基づいたサービスではない.INS構想では,後述するテレビ会議システム*2が,これにもっとも近いコンセプトを持っている.しかし,INS構想が,静止画テレビ電話の出現に積極的な役割を果たしたことは,認めざるを得ないだろう.ISDNの商用サービスが開始される直前に,それと近い形態・サービスを現行の電話網で実現しようという試みは,まさに,近い将来のデジタル電話網の普及を想定した“擬似体験”だからである.われわれは,インフラストラクチャー(社会基盤)の1つになっている電話網の根本的な改革を目前にして,その予行演習を行おうとしている.
*2 テレビ会議システム:ISDNなどが提供する伝送速度64~384kbit/秒の専用デジタル回線を使って,高画質のカラー動画像を伝送するシステム動画像は圧縮したうえで,音声とともに双方向通信が可能になっている.現在,各社が関連システムを発表しているが,システム価格が1000万円以上する.
凄いぞ凄いぞと大げさな表現だらけの文だ。35年後から見ると何を言ってんだかという感じになる。当時は技術の未来に希望を持っていたという熱量を感じる文だ。
 
2 静止画テレビ電話の通信方法
 誤解を覚悟の上で言えば,静止画テレビ電話に要求される技術は,それほど高度なものではない、必要とされる技術は,大別すると以下の3点になる.
(1) カメラ部
(2) 小型CRT
(3) 通信部(通信方式)
 静止画テレビ電話は,VTRや小型テレビ,コンピュータ通信,多機能電話などの製品開発で蓄積してきた技術の応用によってクリアされている.静止画像通信の基本原理はいたって簡単だ.
 図1に,静止画テレビ電話の接続形態を示す.まず,双方向の画像通信を行うには,最低限2台の静止画テレビ電話が必要だ両者は,一般の電話回線に接続される.静止画像の送信は,まず,ビジコンやサチコンなどの撮像素子を使ったカメラ部で送信したい画像をモニタする(図2を参照).好みのショットが決まったら,それをフレームメモリに取り込んでCRTで確認する(図3を参照).この時点で、画像は動画像から静止画像になる.静止画テレビ電話のCRTは3~5インチと小型であるため、フレームメモリのサイズは64~256Kbit*3程度とコンパクトだ.これを,受信用と送信用に2面持っている.CRTを小型にしたのは,人物画像の送信を第一に考えたためだ。人間の顔であれば,3~4インチのサイズで十分な情報を得ることができる.
 静止画は、音声データとして送信されるため,画像データはいったん音声データの帯域に変調したあと,送信ボタンを押して相手方に送ることになる.相手方で受信した音声データは,送信時の逆パターンで静止画に復調して,フレームメモリに蓄積したあと,CRTに表示される(図4を参照).
 静止画像の送信は、会話中に割り込みで入るため、画像の送信・受信中は音声が途切れる(この点,ISDNでは,すべての情報をbit化して,音声データと画像データを圧縮・混在させて伝送するため,両者のリアルタイム通信が可能だ).画像の送信時間は製品によって異なるが,だいたい1.5~10秒程度かかる.送信時間に開きがあるのは,採用している画像の通信方式やCRTのサイズが,製品によって異なるからだ。
 特に,通信方式は,メーカー間でまだ規格統一が図られていないため,同じ静止画テレビ電話でも異なるメーカー同士では,通信できないという非互換問題が浮上している(後述).
*3 フレームメモリ・サイズ:三洋電機が開発した静止画テレビ電話は,16階調(4096色)のカラー表示を可能にするため,フレームメモリは送・受信用に各2Kbytesの合計4Kbytesを装備している.また,シャープが開発したシステムは,液晶ディスプレイを使って64階調表示を可能にしている.

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ASCII1987(12)e02TV電話_図4_W317.jpgまあ誤解はしない。大して高度な技術ではなくても静止画なら通信できるだろう。画像通信は35年前は凄い技術のように思われていた。ただ使いものになるには入力機器、出力機器はもちろんだが通信自体の技術革新が必要だった。
3 必要とされる基礎技術
(1) カメラ部
 送信する静止画を生成するには,カメラでモニタした動画が必要になる.動画の撮影に使うカメラの撮像素子には,サイズが2分の1インチのサチコン(ソニー)や,ビジコン(三菱電機)を用いる.
 サチコンやビジコンは、セキュリティー用簡易監視システムのモニタカメラなどで使われているものと同じものだ電荷パターンを光に変換する膜が,セレン・砒素・テルルから組成されるものをサチコン,硫酸化アンチモンを用いるものをビジコンという両者ともに,消費電力が1W以下と低く,一般家庭の照明でも十分な画像が得られるだけ感度を持っているのが特徴だ。また,ホームビデオなどに使われているCCD(Charge Coupled Device)型固体撮像素子を採用しようというメーカーもある.
2 小型CRT
 3~4インチという小型サイズのCRT(図5を参照)は,電池駆動のハンディテレビに用いられているものと同タイプのフラットCRTを用いている.ソニーのフラットCRTは,厚さ20mm以下と非常に薄く、消費電力も2W以下に抑えられている.フラット化を実現できたのは,螢光面と電子銃を平行に配置して,電子銃から出た電子ビームを偏向板で1次偏向し,さらに,それを螢光面と透明電極の間で,ほぼ直角に曲げる2次偏向を採用したためだ(図6を参照).また,三菱電機は、既存の小型CRTを採用している。
 ソニーや三菱電機がモノクロCRTを採用しているのに対して,三洋電機はカラーCRTを搭載した静止画テレビ電話を開発した。同社は,フラットCRTのカラー化に1電子ビーム方式(インデックス方式)を採用している.この方式では,螢光面に青・緑・赤の3原色蛍光体がストライプ状に配置されている。1本の電子ビームがストライプの上を走査する時、例えば,赤色螢光体にビームが当たった場合だけビームを強くして,他の螢光体|にビームが当たった場合はビームを遮断すると,画面は赤色になる。つまり,電子ビームがどの蛍光体の上にあるか常に検出し,再生したい色と明るさに応じて電子ビームを変調してやれば,カラー画像が再生できるわけだ。同社では、ビームの位置を常に知るために,3原色蛍光体の間にインデックス光発生用ストライプを挟んで,ストライプからの光信号を検出する方法を採用している.(図7を参照).
3 通信部
 画像の通信方式は,ソニーと三菱電機とでは互換性がない.つまり,「みえてる」の静止画像を「ルマホン」に送ることはできない.ソニーは,AM(Amplified Modulation)変調方式を,三菱電機は振幅位相変調方式を,それぞれ通信方式として採用しているためだ.変調方式は,画面の画素数やA/D変換で扱う情報量,映像データのDC成分の送り方に拘束される.特に,映像データのDC成分が問題になる.一般の電話回線では,DC成分が送れないからだ。
 AM変調方式を例にとってみよう.一一般の電話回線の周波数は,300Hz~3.4kHzと非常に狭い範囲に限定されている.音楽用オーディオ装置が数10Hz~20kHzという広帯域をカバーすることを考えると,電話回線は必要最小限のスペックしか持っていないことが分かる.一方,テレビの映像信号は,DC~4.5MHz程度の周波数帯域を持っている(図8を参照).
 1枚の静止画像の情報量は,周波数帯域と時間の乗算で決まる.だから,電話回線の周波数帯域(300Hz~3.4kHz)に映像信号の周波数帯域(DC~3kHz)を合わせるには,伝送時間を長くしてやればいいことになる.1枚の画像を伝送するには,1画面の表示に60分の1秒かかるから,DC~3kHzの周波数帯域では25秒で送れることになる.
 しかし,電話回線ではDC成分を送れない.なんらかの方法で変調をかけてやる必要がある.AM変調は,ラジオ・テレビ放送などで一般的な方式だ.AM変調は,伝送する信号の周波数帯域に対して,搬送周波数を高く設定する.ソニーの場合は,伝送信号と搬送波を同期させて,搬送周波数を2kHz*4に固定し,伝送帯域がDC~1kHzを実現している(図9を参照).これで,AM変調された信号帯域は1~3kHzになり,電話回線の伝送可能帯域に収まる。
 伝送時間は,搬送波の1周期で1ドットが送れるから,1秒間には2000ドットが伝送可能になる「みえてる」の1画面は(160ドット×100ドット=)1万6000ドットで構成されるため,伝送には8秒かかる(図10を参照).同じデータを1200bpsモデムを使用して伝送すると,1画面は(160ドット×100ドット×4bit=)16万4000bitのデータ量だから,53.3秒も要することになる.
 受信側は,AM変調された信号を復調してA/D変換しながらフレームメモリに蓄積し,受信が終了したらテレビの信号タイミングに合わせて、今度は,D/A変換したのち,CRTに表示する(図11を参照).
 一方,三菱電機が採用した振幅位相変調方式もAM変調に近い方式だが,変調方法が異なるために互換性がない.
 こうしたアナログ変調とは別に,三洋電機はJUST-PCモデムを用いた独自」の通信方式を開発している。同社によれ-ば,この通信方式は,ソニー,三菱電機の両方式と互換性を持っているという詳細は公開していない.また,シャープも両方式と互換性を持った静止画テレビ電話を開発した.同社は,表示部に液晶ディスプレイ,カメラ部にCCDカメラを採用している。
*4 搬送周波数:ソニーが搬送周波数を2kHzに固定しているのに対し,三菱電機は1.748kHzに固定している.両者を通信可能にする変調アダプタを作るには送られてきたヘッダ+画像データをメモリに取り込んだうえで,受信側の変調方式に再度変換する機構が必要になる。価格は2万円程度になる.

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通信がデジタル化していないときは苦労が多かった。技術者の苦労がしのばれる.。
III さて,実際の製品は…

 ソニーの「みえてる」と,三菱電機の「ルマホン」とでは,同じ静止画テレビ電話でありながら,そのコンセプトがまったく違う.
 「みえてる」が,一般家庭を利用主体にして開発されたのに対し,「ルマホン」は,企業ユーザーを主体にしている.それは、価格や機能などからも分かる.しかし,三菱電機は、「みえてる」と同じ価格帯・機能の新機種を年末にも発売する計画であることから,通信方式の規格統一問題は本格化する様相を呈してきた.
 NTTは,ソニーの「みえてる」を「テレフェース」という自社ブランドで販売開始しており,両社合わせてすでに数千台を出荷している(図12を参照).当初,NTTは両方式の製品を販売する意向だったが,利用者に混乱が起きかねないという配慮から,ソニー方式に限定して扱うことを決めた。しかし,三菱電機もすでに販売しているため,各社の担当者は,電信電話委員会で規格の統一を前提にした話し合いを進めている.結論は来年に持ち越される模様だが,両機種で画像通信を可能にする変調アダプタを別売するという解決策が有力だ。それまでは,両方の通信方式が共存しそうだ.
両規格が併存しているが結局どうでも良かった。テレビ電話は普及しなかったのだから。
1 ソニーの「みえてる」

 「みえてる」は,電話機能を装備していない.国内の3800万世帯にすでに設置されている電話機への接続を前提にしているからだ。
 特徴は,(1) コンポジットビデオ端子を使って,外部のテレビやビデオプリンタに画像を表示・プリントが可能,(2) オーディオIN/OUT端子を使って,カセットテープに送・受信画像の録画・再生が可能――などだ(基本仕様は表を参照).使用している主なICは,4bitCPUが1|個,画像処理用のゲートアレイ1個,フレームメモリ用の64KbitSRAM2個の合計4個.
 本体は縦長で,前面最上部右にカメラ部,その下に,4インチフラットCRT,送・受信用フレームメモリの切り換えスイッチ,送・受信状態をモニタするLED,電源スイッチ,動画像を静止画像に取り込むスイッチ,送信スイッチなどが配置されている.また,後面にはオーディオIN/OUT端子,コンポジットビデオ端子,電話回線端子が,右側面には電話/カセットテープ再生の切り換えスイッチ,カメラの輝度調節つまみが,それぞれ配置されている(図13を参照).
 カメラの焦点深度*5は60cm+15cmで,文字は40級以上の大きさなら識別できる(図14を参照).もともと,人物の顔が判別できる程度の解像度しか持っていないはずだが,図14からも分かるように,画像のクォリティは意外に高い.
 送信時間は,「ルマホン」の1.5~5.5秒に比べて9秒と長いが,使用してみるとさほど気にならず,待ちながらイライラするというほどではない価格を考えると,この程度の画像でもそれなりに満足できるレベルだ。
*5 焦点深度:カメラのレンズが焦点を結べる範囲の距離だいたい1m以内になっているが,解像度が低い静止画テレビ電話では30cm~1m程度の許容範囲を持っている.文字の場合,明朝体よりもゴシック体の方が認識率は高い.今後,静止画テレビ電話で一番問題になりそうなのは、画面の解像度だろう.

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なるほど一般回線を使うとなるとかなり厳しそうだ。
2 三菱電機の「ルマトン」

 三菱電機は,現在出荷している「ルマホンLU-1000J」(図15を参照)のほかに,年末までに「みえてる」と同価格帯の「ルマホンLU-500」(図16を参照)を販売する予定だ。
 LU-1000Jは,電話機能を装備した高級タイプで,企業ユーザーの使用を中心にしている。米国では,すでに数万台の販売実績を持つが,日本では数百台程度しか出荷されていない.同社では年末までに,ソニーと同じように電話機能を分離した普及タイプのLU-500を主力機種にすることにしている.
 LU-1000Jの特徴は,(1) 送信画面のサイズを3段階に変更可能,(2) 電話機能を装備,(3) 2・4・8倍のクローズアップレンズキットをオプションでサポート,(4) 同一画面に送・受信画像が表示可能,(5) 受信用フレームメモリを3面装備――など.1
 LU-500は,LU-10005から電話機能を分離したうえ,送・受信画像の同時表示機能を削除したもので,主な機能はLU1000に準拠している(基本仕様は表を参照).使用している主なICは,8bitCPU(8KbytesROMを内蔵)1個,フレームメモリ用の64KbitDRAMを4個,画像処理用ゲートアレイ1個の合計6個.
 操作パネルは本体前面に集中しており,5インチCRTの右横にカメラ,左下に輝度調節ボタン,受信した静止画像の切り換えボタン,送信ボタンが配置されている.外部I/Oは,ビデオIN/OUTとオーディオIN/OUTの拡張ボードがオプションでサポートされる予定だ。
 カメラの焦点深度は46cm±20cmで,文字は「みえてる」と同じ40級以上の大きさなら識別できる.「ルマホン」は32階調表示を実現しているので、「みえてる」より認識率が多少高い(図17を参照).基本的なオペレーションは「みえてる」と同じだが,送信時に静止画像をモニタする機能がない.送信画像は,動画像からフレームメモリに取り込まれると,すぐに送信される.
 「ルマホン」は,送信状態をモニタする機能は持っていないが,受信した画像を順次画面に表示していくリアルタイム表示を採用している(「みえてる」は,フレームメモリに全データを展開したあとで表示する).
この段階の製品は残念なものだが、多分数年後にはもっといいものを出せると思っていたのだろう。だが、歴史をみるともっといいものを作ってもダメだった。
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3 技術者のジレンマ

 1956年,米国ベル研究所で開発が始まったテレビ電話は,当初から動画像通信を前提にした本格的なシステムを想定していた.その後も,動画像テレビ電話は盛んに研究・開発が進められているが,実用化という点では,システム価格が非常に高くなるという理由から,一般消費者レベルの製品化には至っていない.
 ソニーの開発チームが,4万9800円という価格を第一目標にしてスペック設定を図った背景には,「多少のレベルダウンはあっても、家庭のためのまったく新しい画像システムを作りたかった」(ソニー・ゼネラルオーディオ事業部*6・長窪正寛氏)という意気込みがあった.高画質化するテレビの開発競争下では,「(静止画テレビ電話の)仕様書を見せられれば,どんな技術者でも製品化には反対するはずだ」(同・鈴木敦氏)というほど、スペックは低く設定されている.しかし、「それでも,製品化してみて初めて面白さが分かった」(同・長窪氏)というほど,満足できる画質レベルの見極めは,技術者にとってもむずかしかったわけだ。「こんなレベルでも使える」(同・鈴木氏)と分かった時点で,製品化に弾みがついたことは言うまでもない.
 しかし,「製品化した今でも,何となく納得できない心情が残っている」(三菱電機・電子機器開発部・上野裕氏)というあたりに,高画質を追い求めてきた技術者のジレンマがありそうだ.
*6 ゼネラルオーディオ事業部:ソニーの代名詞となった「Walkman」を生み出した事業部常識にとらわれない発想を尊ぶことで有名.「汚い画面は絶対にダメ」という常識にあえて挑戦した結果が「みえてる」.長窪正寛氏は,テレビ朝日系列の「CNNデイ・ウォッチ」のキャスターとしても有名.
ジレンマか。そうだろうね。低品質でも市場に出さねばならないというのは技術者としては辛いものがあったろう。
IV 静止画テレビ電話に将来はあるか?

 業界関係者の中には,「静止画テレビ電話は、ISDNの本格始動までの“遊び道具”にすぎない」と断定する見方がある.「伝送速度が64kbpsという高速回線が敷設される時代の製品ではない」という意見もある.また,「最初に製品が販売されて,あとから規格統一でケチがつくようなものに,消費者はついてこない」と指摘する向きもある.
 こうした悲観派に対して,「ISDNが商用開始されても,擬似動画テレビ電話がはかかる.手の届く製品があれば,それを使うのが消費者心理」という見方が楽観派の多数意見だ「実際に使ってみると、いろいろな発想が湧いてくる.まず使うことが先決では」と指摘するソニーの長窪氏は,「ウォークマン的な発想で,静止画テレビ電話を生み出した」と述懐する.「現在の製品は、テレビ電話のほんのハシリにすぎない.今後,いろいろなバリエーションが考えられる」(同氏)という。例えば,ラジオ放送で画像データを送り,カセットテープで録音したあと静止画テレビ電話で再生する,といったことも夢ではなくなる.
 どちらにしても,誰でもが持っているような状況にならない限り,静止画テレビ電話の楽しみは理解できない.本当に普及するかどうかは,電信電話委員会が取りまとめに入っている統一規格にかかっている。
歴史は悲観派が正しかった。まあ、歴史は「統一規格にかかっている」というところでもう間違えていたことを示している。

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