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スーパーコンピュータの展望(月刊ASCII 1990年1月号5) [月刊アスキー廃棄(スクラップ)]

特集記事「スーパーコンピュータの展望」をスクラップする。
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リードをスクラップする。
 「スーパーコンピュータ」,この言葉を見聞きした時、どのような印象を受けるだろう.「高価」,「高速」,リクルート事件や,東京工業大学で眠り続けるスーパーコンピュータを思い出す人もいるかもしれない.スーパーコンピュータは,技術的な側面だけでなく,日米貿易摩擦問題でもキーワードの1つである.
 こうした話題は,スーパーコンピュータが,ある意味で身近になりつつあることを示唆している.
 軍事関係や官公庁と相場の決まっていたユーザー層は,急速に広がりはじめている.民間企業で自社用に導入することもめずらしいニュースではなくなってきた.気象庁での通常の天気予報や,自動車メーカーの安全テストでのシミュレーションなどをはじめとして,スーパーコンピュータの技術が,われわれの実生活に入り込んできているわけだ.
 本稿では,スーパーコンピュータの全体像をレポートする.
(編集部)

「リクルート事件や,東京工業大学で眠り続けるスーパーコンピュー」なにかあったような気がするが、なんだったか思い出せない。この当時のスパコンを凌駕するマシンを机の上においてこうしてスクラップしているが、当時から見ると宝の持ち腐れなんて言葉では語りつくせないほどの暴挙と言える状態だ。
 マイコンから始まり40年以上もコンピュータを趣味で使い続けこんなところまで来るとは最高のタイミングで生まれたことだと感謝している。
スーパーコンピュータ/その定義
さまざまな意味あいを持つ機械

 古代,いつ日食が起こるかを予測した者は,巨大な富と権力を得ることができた。世の中で何が起こるかを,いち早く知りたいという願望は,情報網の発達した現代になっても絶えることはない.未来の出来事,気象の変化,経済状況の変遷などを、過去の推移から「計算」によって予測する試みは,コンピュータの登場を待つことなく,以前から行なわれてきたのである.
 予言者は経験則で未来を予測しようとし,数学者は計算式で現象を導き出そうとした.数値天気予報の先駆け,L.F.Richardsonは,6万4000人の人間を1カ所に集め,未来の天候を計算した.ひとりひとりに紙とペンを持たせ、各人間を空気の固まりに見立てて,大気の動きを模倣したのである.今から約80年前,1910年5月20日のことだ。それによって,ドイツの一地方の6時間後の天候を予測したのだが,彼の算出した結果は,実際の天気と一致しなかった.しかし,計算によって自然現象がシミュレートできるという可能性は試されたのである.当時でも,歯車や計算尺など,機械的な数値計算機は存在していたのだが,計算結果を導き出すためには膨大な時間がかかっていた.
 計算速度の高速化という要求は,この時点ですでにあった。そして実現するための電子技術も構築されつつあった.後は,実際に計算機を作る経費が問題だったのである.莫大な予算を使える組織は,今も昔も変わってはいない.それは,軍事に関わるものである。たとえば,大砲の弾やミサイルを目標に確実に到達させたいと考えたとする.これには,ニュートン力学の弾道計算が必要なわけだが,1940年代までは,この計算に膨大な時間がかかっていた.いかに速く計算できるかが,軍事戦略にまで波及したのである.要求・技術・費用の条件がそろった米国では,軍事部門からの開発費用を受けて研究が進められ,ついに,真空管を利用した世界初の電子式計算機「ENIAC」が1946年に完成する.真空管1万8800本を接続して動作したENIACは,計算の専門家が7時間かかっていた弾道計算を,わずか3秒で解いたという。真空管の時代から,トランジスタなどの半導体の時代に入り、計算速度はますます高速化する.さらに,ICやLSIなどの集積回路化が進み,高速計算機としてのコンピュータの地位は揺るぎないものとなった。それではスーパーコンピュータは,いつ登場するのであろうか.

ユニークな特徴か?それとも処理能力で分類するのか?
 スーパーコンピュータは,一般に「科学技術計算専用の超高速コンピュータ」である.また,別の言い方をすれば,「同時代の中で抜きん出て高速のコンピュータ」ともいえる.しかし,スーパーコンピュータの名称を一般的に広めたのは,米クレイ・リサーチ(Cray Research)社が1976年に完成させた「CRAY-1」だ.前出の要求通り,CRAY-1の第1号機は米軍関係のロスアラモス国立研究所に納入され,そして2号機は,米国の国立大気研究センターが買い取ったのである。CRAY-1は,計算速度を優先するため,電気配線部分がなるべく短くなるよう円筒形にデザインされていた。その独特の形状と,1秒間に浮動小数点演算を16億回行なえる最高計算速度で,CRAYは,その後も,スーパーコンピュータの代名詞といわれるほどまで普及した.
 米国で誕生したスーパーコンピュータではあるが,それと同等の能力を持つマシンが作れないか?と努力してきたのが日本のメーカーである.米国と同様に,真空管・トランジスタ・集積回路の流れを経て,高速コンピュータの開発が進んだ。1960年代には,米国製マシンと日本製マシンの計算能力の比は4対1になり,1972年には2対1,1978年には日本製マシンの性能は米国製マシンと同等になった。1983年に日立製作所が日本初のスーパーの名を冠するコンピュータ「HITACS-810/20」を発表した.このコンピュータの最高計算能力は678MFLOPSと,当時の世界最高速度を実現。日本のスーパーコンピュータは,クレイ・リサーチ社の独占市場を揺るがし得る存在となったわけである.
 日米貿易戦争がスーパーコンピュータの定義にも影響する従来,スーパーコンピュータと呼べるのは「最高計算速度が100MFLOPS以上のもの」となっていたが,汎用コンピュータの速度向上によって,話は多少ややこしくなっている.米国との経済摩擦問題では,このスーパーコンピュータの定義が,そのまま取り沙汰される場面もあった.
 日本国内で稼働するスーパーコンピュータは,クレイ・リサーチ社製などの米国製が約20台,日本メーカー製が約80台といわれている.日本市場でみた場合,米国製対日本製の比は1対4であり,米国製のマシンはあまり売れていないことになる.しかし,ここで最高計算速度100MFLOPS以上をスーパーコンピュータと呼ぶとすれば,ミニコンピュータや汎用コンピュータなどの上位機種もスーパーの範疇に含まれてしまう.米IBM社の「IBM3090-200S」など,100MFLOPS以上の最高計算速度を実現した米国製マシンは、日本国内でも多数稼働している.そうなると,さきほどの1対4の比率が1対2ぐらいになってしまうわけだ。日本国内で稼働する米国製スーパーコンピュータの比率が上がってしまうと,米国商務省の主張の裏付けが弱くなってしまう.そこで,米国商務省は「最高計算速度160MFLOPS以上の能力を持つマシン」をスーパーコンピュータとしては,と提案した.これは,クレイリサーチ社の言葉を借りるならば「CRAY-1以上の計算能 力を持つマシン」のことだという.

スパコンが日米貿易摩擦に関わってきたとは。当時はスパコンはCRAY-1のイメージしかなくて日本は遅れていると思っていた。
 100MFLOPSというとPentium(300MHz)でも300MFLOPSだから当時のスパコンの能力でよくも軍事、気象予報をしていたものだと感心する。そういえば、天気予報昔は当たらなかった。弁当箱を天気予報のある面の新聞紙でくるんで持っていくというジョークがあった。当たらないから(食あたりしないから)というジョークだった。今は、よく当たる。信頼性が高くなっている。
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スーパーコンピュータ/その用途
得意な分野と不得意な分野がある

 スーパーコンピュータは,科学技術計算用に開発・製造されたものであるため,用途はそれほど広くない.しかし,スーパーコンピュータを汎用コンピュータとして使えないことはない。問題は使用時間にかかる金額である.スーパーコンピュータは,高速動作を要求される場所で利用されなければ,その真価が発揮できない。実際には,どのような使われ方をしているのだろうか.
 スーパーコンピュータは,気象予測の用途から要求され,開発されてきた背景を持っている.いかに速く正確に予報を出すかは,天気予報官の長年の課題であった.しかし,たとえ正確な予測であっても,6時間後の天気を予測するのに,24時間もかかっているようでは意味がない.たとえば,日本の場合では,台風の進路予測にスーパーコンピュータが使われている。海上にあった台風は,わずか数時間のうちに接近上陸し,多大な被害を残して通りすぎる。この進路予測のためには,日本周辺の大気の動きを高速に計算できるスーパーコンピュータが必要なのである.数値天気予報では,気体粒子の集まりである大気を,おおまかに分割して,それらを偏微分方程式で解いて解析している.
 そのため天気予報の他にも,偏微分方程式で定義できる現象は,スーパーコンピュータで解析できるといってもよい。例をあげるならば,海流解析/津波予報/地震波の伝播解析などの自然災害に関するものから、航空機/スペースシャトル/自動車/船舶/橋/ダム/高層ビル/電子回路/半導体素子/音響ホールなどの設計,プラズマ核融合/乱流/核反応/原子核構造/物質拡散/伝熱などの解析まで,自然科学の全般にわたっている.しかし,スーパーコンピュータが苦手とする科学計算もある。たとえば,素粒子物理学/多粒子物理学/統計物理学/生体科学/遺伝子解析/天体科学/資源解析/画像処理/社会科学などの分野である。これらの領域では,偏微分方程式の数値解析とは異なる数値シミュレーションの方法が必要となり,現在のスーパーコンピュータでも能力不足なのが実情だという.

米国製VS.日本製 違いはハードか?それともソフトか?
 また,米国製のスーパーコンピュータと日本製のそれとを,用途面で見ると多少の違いがある.導入企業先で分類すると,CRAYシリーズなどの米国製マシンは自動車メーカーに数多く納入されているが,日本製のマシンは航空機船舶メーカーが使っているという。この違いは何かといえば,使用されるソフトウェアが違うからである.自動車メーカーのように,主に機械の構造や強度を調べる構造解析の場合には,CRAYシリーズのソフトウェアが有効なのだが,航空機や船舶の周囲で空気や液体がどのようにふるまうかを調べる流体解析の場合には,日本製マシンのソフトウェアが最適だという.スーパーコンピュータの性能を,ハードウェア面だけで一概に語るわけにはいかない。また,米国製と日本製では,計算の高速化に対する考え方も違う.日本製では,単一のプロセッサの性能を上げることで高速化を実現しようとし,米国製はプロセッサの能力を上げずに,複数のプロセッサを使うことで高速化しようとしてきた.マルチプロセッサタイプのスーパーコンピュータでは,複数のCPUに均等に仕事を配分しなくてはならない。しかし,この配分作業(離散化という)は,非常に困難で,まだまだ専門のオペレータが少ない。特に,近年スーパーコンピュータ用の計算として新たに解析方法が確立された分子科学の分野では,十分なソフトウェアもなく立ち後れている.このあたりも,日本などの新鋭の企業にって,米国製のスーパーコンピュータを導入しにくくしている原因だという.スーパーコンピュータの技術を,ハードウェア面だけで語ることはできないのだ.
(池田)


スーパーコンピュータの代名詞的存在 CRAYシリーズ
 スーパーコンピュータといえばCRAYというほどに,その代表的役割を果たしてきたのが米クレイ・リサーチ社のCRAYシリーズである。1988年末の統計では,全世界にあるスーパーコンピュータの数は約300台,そのうち64%をクレイ・リサーチ社のCRAYシリーズが占めるという.その最先端の技術や、このジャンルを切り開いてきた実績は,敬意を表すべきものである.
 現在の状況では,むしろ知りたいのは最近の国産メーカーの実力だという向きもあるだろう.これについては次号でレポートする.今回は,スーパーコンピュータの主流であるCRAYシリーズをスケールに,スーパーコンピュータの流れを見ることにしよう.

▼スーパーコンピュータとともに歩んできた
 クレイ・リサーチ社の創始者であるシーモア・R・クレイ(Seymour R Cray)博士はCRAY-1,CRAY-2,CRAY-3の設計開発者だ。もともとクレイ博士はユニバック(Univac)社の技術者であったが,世界最速のコンピュータを開発するため,1957年に他の技術者とともにCDC社(Control Data Corporation)を設立する.
 CDC社は1964年にCDC6000というコンピュータを発表する.最大処理性能は約1MFLOPS程度であったが,高速化のためにパイプライン処理を採用するなど,現在のスーパーコンピュータと同様の仕様を持っていた.
 この後,CDC7000/6600/7600などを開発し,気象予測をはじめとする科学技術計算用コンピュータの市場を徐々に広げていった。
 1974年,最大処理性能100MFLOPSのCDC Star-100(後に改造され,CYBER-203)を開発する.しかし,Star-100では処理速度を上げるために設計思想を一新してしまい、既存のアプリケーションが使用できなくなった.
 このような設計方針の変更に反発したクレイ博士はCDC社を退社。1972年に4人の仲間とともにクレイ・リサーチ社を創設する。これが現在のスーパーコンピュータ市場のトップメーカーであるクレイ・リサーチ社のはじまりである.

クレイ博士の8角柱 CRAY-1
 クレイ・リサーチ社の最初の製品であるCRAY-1は1976年に発表された.
 CRAY-1は,従来のスカラー演算に加えて,複数の計算プロセスをベクトル化することにより高速で演算を行なうベクトル処理機構を備えていた。これは現在でもスーパーコンピュータの多くが採用している高速化の技術だ.CRAY-1は1サイクルが12.5ナノ秒という当時最高のクロック周期を持つ単一プロセッサを使用し,最大処理性能160MFLOPSを実現した.
 CRAY-1は発表後間もなく,ロス・アラモス国立研究所に納入されるなど,公立機関を中心にシェアを伸ばした.これは,当時高いシェアを保っていたCDC6600/7600と互換性を持たないCYBER-203よりも,アーキテクチャを継承したCRAY-1をユーザーが選択したことが大きな理由だ,ユーザー数を増やしたCRAY-1は,しだいにスーパーコンピュータの代表的製品になる.日本でも,センチュリリサーチセンター,三菱総合研究所に1980年に納入している.
 この後CRAY-1は,ネットワーク環境や周辺機器に対応するためI/Oサブシステムを拡張したCRAY-1/S,それまでのECLバイポーラ素子をより安価なMOS素子に置き換えたCRAY-1/Mとバージョンアップする.

民間向けスーパーコンピュータのベストセラーCRAY X-MP
1982年,クレイ・リサーチ社はCRAY-1のアーキテクチャを引き継ぐCRAY X-MPを開発する.X-MPは最大で4台のプロセッサ(クロック周期8.5ナノ秒)が並列稼働する初のマルチプロセッサのスーパーコンピュータである.
 同シリーズは最小構成のX-MP/1SからX-MP/4まで,1個から4個までのプロセッサ構成を選択でき,最大構成ではCRAY-1の約10倍の処理速度を実現している.
 世界のスーパーコンピュータ需要も,価格が比較的安価になるにつれて民間企業への導入も活発になった.膨大な地質データを処理できるスーパーコンピュータが石油探査に応用できることが分かり,大資本の石油企業が購入したのを皮切りに,多くの民間企業が導入を開始した.日本でも1984年にNTTと東芝がX-MPを導入している.
 X-MPはCRAY-1の後継機種であるCRAY-2が発売された後も改良が続けられ,民間向けスーパーコンピュータのべストセラーとなった。現在稼働しているCRAYシリーズの60%以上がX-MPシリーズである.

▼新技術で話題をまいたCRAY-2
 1985年には,CRAYシリーズの純粋な意味での2台目ともいうべきCRAY-2を発表した.
 CRAY-2は2台または4台のプロセッサ(クロック周期4.1ナノ秒)が並列して稼働するシステムであり,最大処理性能で約2GFLOPSを実現していた。複数のプロセッサの使用と同時に、基板全体の集積度を高めたことによる,小型化を実現している.
 高密度な基板集積技術は,配線距離の短縮というスーパーコンピュータの高速化に必要な技術だ.CRAYシリーズは最初から配線距離を短縮するため,その後CRAYシリーズの特徴となる8角柱の一辺を欠いたC型のスタイルを採用している。機器間の距離を最小にしようとすると理想的な配置は球形となるが,それでは内部の配線が不可能なのでCRAYシリーズは上から見ると,円に近い8角形の形状をしている.欠けている1辺は配線とメンテナンス用スペースとなる.
 ところが,基板の密度を上げることにより,各基板が発する熱が大きな問題になる.CRAY-2では8×8×12=768個のICで構成される2.5×10×20cmのモジュールが最大336個使用される.これが直径135cm,高さ114cmの本体に内蔵される。消費電力は300~500Wであるから発熱量も膨大なものになる.
 スーパーコンピュータの多くは,現在のパーソナルコンピュータと同じ空冷システムや,冷却水の通ったパイプが基板に埋め込まれた水冷システムを使用している。これに対し,CRAY-2では基板自体が丸ごとフッ化炭素液に漬けられる独自の冷却装置を採用し、従来では考えられなかった実装密度を実現した.
 この冷却液は完全不活性で,温度に対しても安定した化合物である.CRAY-2では計950リットルの液が毎秒2.5cmでチップ間を流れ,温度の上昇によるチップの不安定化を抑えるとともに,温度変化によるチップの破損を防いでいる.
 CRAY-2は,後にSSD(半導体記憶装置)を装備したCRAY-2/Sとなり,現在に至るまで最強のスーパーコンピュータの1つに数えられている.
 ソフトウェア面から見ると,1986年にはCRAYシリーズ全機種にわたって共通するオペレーティングシステム,UNICOSを搭載することになる.これはUNIX System Vに準拠する会話型OSである.それまではCOS(Cray Operating System)と呼ばれる専用OSで使用していたが,般的なUNIXが搭載されたことにより,ソフトウェア面での充実が図られた。

▼8台のプロセッサが並列稼動する最高機種CRAY Y-MP
 高性能に徹したために非常に高価な機種なってしまったCRAY-2に対し,X-MPの後継機種を望むユーザーも少なくなかった。このためクレイ・コンピュータ社は1988年にX-MPの後継としてY-MPを開発した.
 これは最大8台のプロセッサ(クロック周期6ナノ秒)が並列稼働し,最大処理性能では4GFLOPSとCRAY-2を超える性能を持つ。より集積度の上がった基板実装密度のため,CRAY-2に似たフッ化炭素液による冷却方式を採用している.ただしY-MPでは基板のモジュール化が進み,冷却液に基板が漬けられるのではなく,各モジュールに冷却液をパイプで送り込む構造になった。
 Y-MPはSSD(半導体記憶装置)という補助記憶装置を標準装備している.これは高速なアクセス速度を持つメモリで,スーパーコンピュータにとってボトルネックとなる補助記憶装置へのアクセス時間が短縮できるため,大規模な計算に威力を発揮する.
 Y-MPは1~8台のプロセッサ構成にSSDやI/O機器のバリエーションを加えた19モデルがある.また,X-MPの改良型であるX-MPEA/seの3モデルがこれに加わる.これは1プロセッサ(クロック周期8.5ナノ秒),352MFLOPSのエントリーマシンで,Y-MPと完全互換性を持っている.
 Y-MPシリーズにX-MPEA/se3モデルを加えた全22モデルが,現在のクレイリサーチ社の主力となる製品だ。

▼蓄積されたスーパーコンピュータのノウハウ
 スーパーコンピュータ市場の中で,CRAYシリーズの持つ利点は何だろうか.
 パーソナルコンピュータ市場でPC-9801シリーズが圧倒的なシェアを持つように,CRAYシリーズの利点はソフトウェア資産を新機種が受け継いでいることにあるといわれている.本稿でもスーパーコンピュータの進歩の目安にした最大処理性能だが,実際に最大処理速度で計算できることはまずない.スーパーコンピュータのベクトル処理装置に合わせた計算式ならば理論値に近い性能は出せるだろうが,実際の計算式をベクトルに展開した場合に最適な行列とはならないことが多いからである.一般的な流体シミュレーションなどの解析計算では最大処理性能の4分の1程度の処理速度が限度だといわれている.
 そこで、機種に最適化したベクトル化を行なうことがソフトウェア技術に求められる.たとえば,科学技術計算で多く使用されているFORTRANでは,計算式やループ構造を効率よくベクトル化するため,コンパイラに工夫を凝らしてある.CRAYシリーズは何年も使用されてきただけあって,使用するコンパイラは高いベクトル化効率を持っている.
 アプリケーションプログラムでも似たようなことがいえる.スーパーコンピュータはプログラムをベクトル化することによって高速化を行なうので,スカラー演算で処理されることを前提にした汎用機用プログラムをそのまま使用しても処理速度にあまり反映されない
 長年にわたって企業や研究機関で使用されたCRAYシリーズには,ベクトル演算用のアプリケーションが多数蓄積されている。たとえば構造解析などのスーパーコンピュータ用プログラムの種類は,日本の国産スーパーコンピュータ用のものはCRAYシリーズ用の10分の1以下ともいわれている.

▼次世代のCRAYシリーズ
 1989年,クレイ・リサーチ社は子会社としてクレイ・コンピュータ社を設立した.ここでは主に次世代製品の研究開発が進められている。クレイ・コンピュータ社の設立は,莫大な資金を必要とし,リスクの高いスーパーコンピュータ開発部門を分離することが目的であると一般的に考えられる.
 1989年9月には,クレイ・コンピュータ社はCRAY-2の後継機種であるCRAY-3の開発目標スペックを発表した.CRAY-2の4プロセッサ構成に対し,CRAY-3はクロック周期2ナノ秒のプロセッサを16個つなげ,最大処理速度は4倍の16GFLOPS程度だと見込まれている.CRAY-3は大きな特徴として,ガリウム砒素チップを使用している.これは従来のシリコンチップに比べて処理速度が速く,コンパクトで発熱量も少ないという利点がある.
 ガリウム砒素チップは,シリコンチップに比べ温度により動作が不安定になりやすいが,CRAY-3ではCRAY-2と同様な液冷システムを導入し,この問題をクリアする予定である.
 CRAY-3の形状は,CRAY-1,CRAY-2と同じような8角柱をしており,直径が70cm程度,高さは1mに満たないほどのコンパクトなサイズである.
 クロック周期の2ナノ秒というのは光でさえ60cm程度しか進まない距離であるが,CRAY-3を構成するチップはすべてこの60cm角の範囲内に収まっていると考えられる.実際,CRAY-1やCRAY-2を見ると,それぞれのマシンの1クロックに光が到達する範囲内の大きさに設計されている。いかに速いプロセッサでも,1回の処理サイクル以内でメモリやI/Oシステムに信号が届かなければ,実質的な処理速度が制限されるためだ。このココンセプトはCRAY-3でも生かされている.極限の性能を追及するための,高度な実装技術といえる.
 しかし,最近の発表によるとCRAY-3の開発は難航しているとも聞く.当初では1990年中だった出荷予定も,大幅に遅れると報じられた。原因はガリウム砒素チップの安定性に問題があると聞く.また,正式な発表ではないものの,クレイ氏は1992年か1993年には64プロセッサ,128GFLOPSのCRAY-4を開発すると予告している.クレイ・コンピュータ社は,まさにスーパーコンピュータの最先端を走っている感がある.
 CRAY-3のような次世代のスーパーコンピュータ開発を目指すクレイ・コンピュータ社に対し,より一般的な製品を開発するクレイ・リサーチ社は,X-MP,Y-MPの後継機種を開発中である.これはC-90という開発コード名を持ち,16プロセッサ(クロック周期4ナノ秒)で最大処理性能24GFLOPSを達成すると発表している.C-90はX-MP,Y-MPのアーキテクチャを継承し,ソフトウェアに互換性を持っている.発売時期は発表していないが,Y-MPシリーズの最上機種としてラインナップに加わる見込みが大きい。

▼スーパーコンピュータ開発競争
 1989年4月,日本電気は新型スーパーコンピュータSX-3を発表した.これは最大4個のプロセッサ構成で最大処理性能22GFLOPSを持つ。これに対し,富士通も4プロセッサ構成,最大処理性能16GFLOPSのマシンを開発中と聞く.スーパーコンピュータの能力は,FLOPS単位の最大処理性能だけで比べられるものではないが,「世界最高速の機種」という言葉の影響は大きい。最近になって性能を上げてきている国産スーパーコンピュータも,世界市場で無視できないものになりつつある.
 また,1987年にはCRAYシリーズの開発スタッフの1人であるS・チェン氏が退社.独立してスーパーコンピュータ開発を専門とする会社を設立した。この会社にはスーパーコンピュータ市場への参入を見合わせていたと思われていたIBMが出資している.
 現在は民間企業を中心にスーパーコンピュータの需要が世界的に増加しており,コンピュータメーカー各社もスーパーコンピュータ開発にしのぎを削っている.クレイ博士とCRAYシリーズの歴史は、そのままスーパーコンピュータの歴史ともいえる。マルチプロセッサやガリウム砒素チップなどの新技術を見るように,常に最先端の技術を導入するスーパーコンピュータの先鋒としての存在は大きい。これからの開発競争の中でCRAYシリーズはどのような役割を果たすのだろうか.
(行正)


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スパコンの記事はASCIIの連載されている大原雄介氏の「ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情」に詳しい
スクラップした部分までの解説に関連するリンクを貼っておく。
第271回  スーパーコンピューターの系譜 代表作CRAY-1と地球シミュレータ
第272回  スーパーコンピューターの系譜 スパコンの起源といえるIBM 7030
第273回  スーパーコンピューターの系譜 民間・軍事に幅広く採用されたCDC 1604
第274回  スーパーコンピューターの系譜 ベクトル型の傑作STAR-100
第275回  スーパーコンピューターの系譜 “スパコンの父”が作り上げたCRAY-1
第276回  スーパーコンピューターの系譜 性能を10倍に引き上げたCRAY-2
第277回  スーパーコンピューターの系譜 高性能だが売れなかったCRAY-3
第278回  スーパーコンピューターの系譜 マルチコア化で大ヒットしたCRAY X-MP
第279回  スーパーコンピューターの系譜 CRAY Y-MP以降のベクトル型マシン

スピードをインテルのCPUと比較すると「CRAY-1は1サイクルが12.5ナノ秒」は1クロック80MHzということになる。Pentium以下である。「X-MPは最大で4台のプロセッサ(クロック周期8.5ナノ秒)が並列稼働する初のマルチプロセッサ」は1クロック約118MHzだ。今このスクラップしているマシンが
Core i5-10400 だから6コア12スレッドで 2.90GHzだから有り余る高性能でこんなことをしていて申し訳ない気になる。

コラム記事をスクラップする。
スーパーコンピュータはなぜ速いか?
 スーパーコンピュータの処理速度は,汎用機の数十倍から数百倍といわれている.このような超高速演算は,どのようにして実現されているのだろうか?
(1) 超高速素子と高密度実装
 答の1つは、超高速素子を演算回路に使用して,1つの演算回路の速度を極限まで高めるアプローチである.スーパーコンピュータには最先端の半導体技術が投入されている.これらの半導体を素材として高密度な素子の搭載,最短距離による素子間の配線,効率のよい素子の冷却など高度な実装技術も重要である.
 SX-3シリーズを例にとると,最高70ピコ秒/ゲートという超高速素子が採用されている.1ピコ秒というのは1兆分の1秒のことであ70ピコ秒では光ですらわずか2cm余りしか進めない。しかも1つの微小なチップの上にこのような素子を2万個も載せており,このチップ100個を1つのボードに搭載している.これにより,22.5cm四方のボード1枚になんと200万個もの超高速ゲートを搭載し,物理的な大きさが超高速演算の限界を左右するスーパーコンピュータにおいて,極めて高密度な実装を実現している.

(2) パイプライン演算処理
 答の2つ目は構造上の工夫である.1つの演算器の速度を極限まで高めた上,スーパーコンピュータでは連続的に休みなく計算を続けることで毎秒当たりの計算回数を増やす工夫をしている.演算器の中でデータが滞留すると後続のデータが入力できず計算が遅れるため,特別な仕掛けが必要となる.この仕掛けを持った演算器をパイプライン演算器という。パイプラインとは,石油や流体を連続的に送るために使う輸送パイプのことであるが,連続的に計算を行なう処理との類似性をとってそう呼ばれている.
 たとえばトラックで輸送する場合,トラックが目的地で荷を降ろして戻ってくるまで次の荷は積み出し地点で待たされる.しかし,パイプラインを使えば次々に荷をパイプに送り込むことができるため、単位時間当たりの総輸送量はトラック輸送よりはるかに多い。これと同じことが計算を行なう場合にも当てはまる。演算器の中を多段構成にして,各中間結果を次々と後段に回すことができれば絶え間なく新しいデータを前段に読み込むことができるため,連続的に計算が可能となる.これをスーパーコンピュータでは広く採用されている技術である.日電のSX-3シリーズでは1つのプロセッサに最大16本のパイプライン演算器が実装されており前記のような大量の演算をこなすことができるようになっている.

(3) 並列処理
 計算能力が1台のプロセッサで不足する場合は,プロセッサを横に並べて同時に仕事をさせる方法がある.これを並列処理というが,単に同じ機械を横に並べただけでは十分ではない。相互に関連しない簡単な計算を大量にこなす場合には問題はないが,複雑で時間のかかる計算を分割して実行させることはなかなか難しい。なぜなら,どのように計算を分割し、機械に仕事を割り振るか,終わった計算をどのように組み上げて1つの結果にまとめるかはが計算の内容に大きく依存するからだ.もちろんスーパーコンピュータユーザーの工夫も必要になる.
 このため、(1),(2)で述べた工夫で足りない部分についてのみ、並列処理で補うべきであるといわれている.たとえば,SX-3シリーズでは、1つのプロセッサの性能を最大限に高め、並列プロセッサ台数を最小限に抑えている.これも上記の理由によるものである.
 ただし,素子性能の伸びやパイプラインの数を増やすことにも限界があるため,並列処理の比重が高まる方向にあるといえる。

 竹入 保郎
日本電気情報処理製品計画本部
第一製品部計画室長


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当時スパコンで使われていた技術が今では机上のパソコンで使われている。画期的なアイデアというものは何十年も前(40年前)に既に編み出されていた。その後はそのアイデアをもとに高速化がすすめられてきた。0から1を作り出すことは大変だが、1を10にすることは大変ではないと言われるがコンピュータの世界はそれが当てはまる。

次のコラム記事をスクラップする。
スーパーコンピュータ/ユーザ訪問
スーパーコンピュータは,どのような使われ方をしているのか?実際にスーパーコンピュータを使用しているユーザーを訪問し、現場の状況を紹介しよう。
(株)計算流体力学研究所
 東京・目黒の住宅地のど真ん中にあるこの研究所は,個人の住居を改築して作ったという100%の民間企業である.しかし、それにも関わらず、同研究所内で稼働するスーパーコンピュータは実に4台もあり,気体や液体などの流体解析を行なう単一組織としては,世界有数の設備規模を誇る.同研究所内のスーパーコンピュータを機種別に列記すれば,日立製作所製のS-820/80.富士通製のVP-200,同じく富士通製のVP-400E,日本電気製のSX-2となり,マシン本体の価格合計だけでも、月額で約2億9000万円(発表当時の価格)になる.「趣味がこうじて」という言い方をするにはスケールが大きすぎるのだが,これらのスーパーコンピュータは,会社創設者の「好きな時に好きなだけ,高速のコンピュータを使いたい」という要求がかなえられた結果,装備されたものだという.
 同研究所には,スーパーコンピュータ本体の他にも,専用端末数十台,ワークステーション7台,グラフィックス端末4台,アニメーション作成システム12台,風洞実験設備などがある.これらの設備は、社員以外にも,たとえば,同研究所と契約した自動車メーカーや航空機メーカーなどから,専用回線を使っての遠隔地利用,また,現場に出向社員を派遣しての利用も可能ということだ.
 同研究所では、名称にもある通り、流体の解析を主な業務としている。一口に流体といっても、自動車の走行時の空気の流れをシミュレーションすることもできれば,溶鉱炉の中でドロドロに融け,対流運動を起こす鉄の動向を探ることもできる.また,それらの流体解析用に同研究所で開発されたソフトウェア「NAGARE」の販売,テレビCMやプレゼンテーション向けのCGアニメーションの製作も行なっている。詳しい内容は,企業秘密の部分が多いということで取材できなかったのだが,それも,各部屋の入出がすべてIDカード入力で管理されているのを見ると納得できそうである.
 同研究所では、月1回のメンテナンス時を除いて,一年365日24時間体制でスーパーコンピュータが運用されている.他企業や研究者が,この設備を利用する際の料金を次に記載する.スーパーコンピュータがどのようなものか?コスト面からアプローチするのもよいだろう。
*年間契約
A 年使用料1000万円~(53.4円/秒)
 使用制限CPU時間で年52時間まで
B 年使用料5000万円~(38.6円/秒)
 使用制限CPU時間で年360時間まで
*時間貸し契約 登録料金50万円
(1) TSS処理400円/秒(CPU時間)
(2) バッチ処理100円/秒(CPU時間)


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