SSブログ

カラー液晶(月刊ASCII 1989年8月号7) [月刊アスキー廃棄(スクラップ)]

特別レポート「見えてきたカラー液晶」液晶表示デバイスの歴史とカラー化技術
をスクラップする。
ASCII1989(08)f01特別カラー液晶_W520.jpg
ASCIIはこうした先端技術の特集記事が読み応えあった。

液晶表示デバイスの歴史は1888年にさかのぼる
 液晶が表示デバイスとして我々の身近に登場したのは,1970年代中頃のことだ。当時の液晶表示装置といえば,電卓やデジタル時計に採用された,いわゆる「セグメント方式」と呼ばれるもので,数字しか表現できなかった.
植物学者が液晶を発見
 液晶そのものの発見は,1888年にさかのぼる。オーストリアの植物学者ライニッツァが,液体と固体の中間の性質を示す脂質を植物細胞の中から発見したのが最初である.この物質は,液体のように流動性を持つにもかかわらず,その中で分子が規則正しく並ぶ結晶状態にあるこ「とから,「液晶」と名付けられた。1964年になって,米国のハイルマイヤーらにより,この液晶物質が偏光した光の方向を曲げることが明らかにされ,なおかつ,その特性が電圧をかけることで消滅することも発見された.
 この偏光方向を曲げる性質と,偏光板を組み合わせることで,電圧のオン/オフによって光の透過を制御できることが分かった。電気的な操作で光の通過/不通過を制御する「光スイッチ効果」こそが,液晶を表示デバイスとして実用化せしめた技術なのである.

数字・文字から画像へ
 1974年頃になって,表示デバイスに液晶を使った各種製品が登場する。時計や電卓に使用されたTN(Twisted Nematic)液晶(棒状の液晶分子を90度ねじるように配置し,電圧をかけた時に光を通過させる方式)は,数字しか表示できなかった7セグメント液晶素子から,関数電卓などに使われている,英文字・カタカナ・数記号が表示可能な,5×7ドットマトリクス液晶へと発展していく.
 1980年代に入って、光のオン/オフ反応の高速化や表示画素の小型化,液晶パネルの大型化が促進され,文字・数記号だけでなくグラフィックスが表現できるTN液晶や,STN(Super Twisted Nematic)液晶が開発され,モノクロTV,日本語ワードプロセッサなどの製品が登場するようになる.

アクティブマトリクス方式の誕生
 RGBのカラーフィルタをこのTN/STN液晶に付加して,カラー化を実現した小型カラーテレビが,1980年代半ばに 登場する.
 同時期に,テレビディスプレイ用として,より鮮明でより反応性のよい液晶方式が実用化された。これが,TFT(Thin Film Transistor:薄膜トランジスタ)液晶やMIM(Metal Insulator Metal)液晶に代表される「アクティブマトリクス駆動方式」の液晶である。アクティブマトリクス液晶を使った小型カラー液晶テレビは,画質という点では,TN/STN液晶をはるかに凌いでいる.
 一方,OA機器におけるカラー液晶は,昨年秋にセイコーエプソンがカラー液晶を搭載したラップトップコンピュータを発表したのが最初である.これは,PC-286LEの表示部にMIM液晶を搭載したものであった。
 その直後に,日立製作所がPC/AT互換ラップトップに6.3インチのTFTカラ一液晶を搭載し発売する,との発表をした.同ラップトップは,今夏からヨーロッパで販売を開始する.
 ここ数年で,液晶をめぐる技術は格段の進歩をとげた。画像の高品質化,パネルの大型化,反応速度の高速化,これら3つの液晶基本技術に加え,カラーフィルタの蒸着/染色技術の進歩が,カラー液晶を搭載したマシンの基礎となっている.
 次章からは,コンピュータの表示デバイスとしては,最有力候補と考えられている2種類の液晶,「単純マトリクス方式の2層STN液晶」,「アクティブマトリクス方式のTFT液晶」を比較しながら,残る問題点についても見ていくことにする。


ASCII1989(08)f02特別カラー液晶図_W520.jpg
ただただ懐かしい。
そういえば7セグメントで無理やりアルファベットを表していた日立のH68/TRというトレーニングキットのシングルボードマイコンがあった。
H68/TR
どんな表示だったか画像がない。似たものが
黄色 LED デジタル数とアルファベット記号セット グラフィック アイデア デザイン コンセプトの黒い背景に 7 セグメント型の - イラスト素材
にあった。16進文字は同じだと思うが、他は似てるだけで多分違うだろう。

液晶表示の原理は「光のスイッチ」
 カラー液晶について解説する前に,基礎技術である白黒液晶技術についてまず見ることにしよう.
 液晶を使った表示デバイス技術を理解するためには,光の偏光についても知る必要がある.電磁波である光は,波の性質を持つことが知られている.自然界一般にあふれる光(可視光,その他)は,あらゆる振動方向を持つ光で構成されているが,偏光とは,その方向が水平方向や垂直方向など一定の方向に偏った光のことである.電圧をかけない状態のネマティック液晶物質(表1)は,この偏光をねじ曲げる性質を持っている(図1)。この液晶物質に,一定の電圧をかけると分子の方向が電気的にそろえられ,偏光をねじ曲げることなく通過させるようになる(図2)。液晶分子の電気的特性と,光の波長以下の非常に細いスリットを持つ偏光板を組み合わせることで,電気的なオン/オフが,光を通したり通さなかったりする光のスイッチに置き換えられるわけだ.
 この1個1個の光の点滅を,平面上に展開したものが,液晶を使った表示デバイスなのである.

 
表1 液晶物質の種類と特徴
種類 性質 主な用途
ネマティック 分子配列の規則性が最も低く,流動性に富む.
電圧によって分子配列が変化.
各種の電圧制御の表示デバイス
コレステリック ネマティック液晶の分子の長軸方向がラセン状にねじれている。
温度によって分子配列が変化.
液晶温度計,乾電池チェッカ
スメクティック 配列の規則性が最も高い.流動性は低く,グリース状.
強電界,磁界で分子配列が変化。
強誘電性の表示デバイス
液晶の性質を示す物質は約2000種類が知られているが,分子配列により3種類に分類される.表示デバイスに使用される液晶は,現在,国内外を含め4つの原料メーカーが十数種を生産し,デバイスメーカーは,各用途(反応性重視や,コントラスト重視など)に対応した数種類をブレンドして使っている。そのブレンド比はメーカーによって異なる.

ASCII1989(08)f03特別カラー液晶図1_W519.jpg
図1 電圧をかけない状態の液晶.非電圧状態の液晶では,分子の配列方向がねじれているため,偏光が曲げられる.

ASCII1989(08)f03特別カラー液晶図2_W516.jpg
図2 電圧をかけた状態の液晶.電圧をかけると,液晶分子が電流の方向にそろえられ,偏光はそのまま通過する.

大型化への壁

 初期の文字数記号のみが表示可能なマトリクス液晶モジュールでは,1文字のドット数はせいぜい5×7の35個であり液晶セル(白/黒に変化する最小単位)への電圧のかけ方も,個々に直接電極をつなぎ、駆動するだけでこと足りていた.
 しかし,グラフィックスが表示できる大型のマトリクス表示液晶の場合,画面のドット数は桁外れに大きくなる。たとえば,3インチ画面の小型液晶テレビの場合,画面のドット数(解像度)は400(W)×240(H)となり,9万6000個の液晶セルを電気的に制御しなくてはならない。また,パーソナルコンピュータなどOA機器向けの液晶デバイスでは,画面の解像度も640(W)×400(H)ドット(あるいは640×480ドット)となり,液晶セルの総数も30万個を超える.
 さらに,カラー液晶ともなれば,RGB各色に対応した液晶セルが必要になり,白黒液晶の3倍,100万個に近いセルを,正確に,かつ高速に駆動しなければならない.これが,大型カラー液晶デバイスを実現する際に,目の前に立ちはだかる壁になっている.

今でも解説を読むとよくもまあ液晶ディスプレイをここまで進化させたものだと思う。技術者という人たちの努力に尊敬の念を覚える。

2層STN液晶

技術的には確立、コスト面で有利
 縦方向と横方向に並んだ帯状の電極の間に液晶物質をはさみこみ,電圧をかけることで,液晶分子の配列を変化させるのが、「単純マトリクス(デューティ)」駆動方式と呼ばれるものだ.この方式は,縦軸方向と横軸方向に配列された数百本の電極に,電圧パルスの時間差(デューティ)を利用して,1本1本走査するように,各々の交点となるマトリクス部分に順番に電圧をかけていく(図3).
 この方式の欠点は,液晶セルの電極が独立していないため,電圧が干渉して隣の液晶セルまでが反応してしまうことだ。これは,液晶を高解像度にすればするほど起こりやすくなっていく.
 電卓や時計などに使用されているTN液晶は,この方式を採用したものだ。TN液晶よりも,液晶分子の配列ねじれ角をより大きくとって,コントラストを高めたのがSTN液晶である.液晶分子の配列角度を大きくしたことで,電圧を切った瞬間に起こる液晶分子の再配列に,より長い時間が必要となってしまった。これは,明暗反応速度の鈍化を意味する.また,液晶分子のねじれ角を垂直ではなく中途半端(220度または240度)に設定したため,光の干渉作用を招き,パネルの本来黒く表示されなければならない部分が,薄緑色や薄オレンジ色に染まってしまうという現象を引き起こしてしまった.
 このSTN液晶の着色現象を解消する目的で開発されたのが,「2層STN(2層STN方式の液晶については,開発各社によって,DST/DSTN(Doubole-STN),NTN(New-TN)など呼び名が異なる.)「液晶」である.
 2層STN液晶とは,STN液晶での全体着色を防止するため,まったく逆のねじれ角を持った補償用の液晶板と偏光板を,メインの液晶板の真上に重ねて配置したもので,光の干渉を互いに相殺して元に戻すことにより,ベース色の黒色化を実現している.
 しかし,よいところばかりというわけでもない。液晶を2枚重ねたため,デバイス自体が厚くなってしまう.また,1枚でさえ透過性の悪い液晶板をさらにもう1枚重ねるわけだから、全体に暗くなりコントラストが低下する。コントラストの問題については,後ろから光を当てる「バックライト方式」の採用によって解消されるのだが,その分,表示モジュールの薄型化,軽量化,低消費電力化を妨げている.
 つまり,2層STN液晶では,新たに視認性,小型化という問題が発生したのだ。


ASCII1989(08)f04特別カラー液晶図3_W520.jpg
図3 STNカラー液晶
 液晶シャッタの原理で、縦横の電極の交点上の液晶が,偏光に対し透明になったり不透明になったりする.カラー液晶の色付けが行なわれるのは最終的な段階で,RGBのカラーフィルタを通過した結果による.
 図では偏光のねじれ角を90度に表現してあるが,実際のSTN液晶では液晶分子のねじれ角を90度以上(220度もしくは240度)に調整してある.また,この図では,2層STN液晶の補償用液晶板は省略してある.

カラー化に際しての問題点

 さて,バックライト付きの2層STN液晶で,高コントラストの白黒2階調表示ができることは分かった.
 白黒液晶をカラー化するためには,RGBのカラーフィルタを液晶セルにかぶせる必要がある。このカラーフィルタは,染料で色付けされた有機物でできているのだが,カラーフィルタを作るのに最適な有機物は固定化していない.
 そして最大の問題点が,このカラーフィルタをガラス板と電極の間に蒸着するための技術だ。電極間の距離を均一に保たないと,液晶表示の濃度にムラが出てしまう。通常の白黒液晶の場合でも,大型化に伴いガラス表面を平らにするための精密加工などが必要になってきている.カラー液晶の場合は,ガラス板と電極との間に,カラーフィルタがはさまれることになる.カラーフィルタは,前にも述べたように有機物でできており,柔らかい物質である.電極間の距離を一定に保つのは,白黒液晶よりも非常に難しくなるわけだ。
 そのほかにも,液晶表示モジュールを薄くするために,電極間の距離を短くすることなどが必要である.モジュール自体が厚いと、視野角が狭くなってしまうためだ。
 しかし,全体的に見れば,これらの技術はすでに確立されたものが多く,技術の精度を上げるということが今後の課題となっているのである。

階調表示は?

 今のところ,2層STN液晶では8色表示が主流である.8色というのは,RGBのオン/オフによるデジタルRGB表示だ.64色とか256色といった多色表示をするためには,RGBそれぞれを階調表示しなければならない。白黒液晶では,8階調あるいは16階調表示が実用化されているが(図4),カラーの場合、その精度がより厳密に要求される.また,カラーで階調を表現するためには,ドライバLSIやコントローラを新たに設計しなおす必要がある.
従来技術の利点と欠点を合わせ持つ

 STN液晶のカラー化技術は,格子状の電極など,電気的な制御部分が単純な半面,液晶分子のひねりを大きくしたり,カラーフィルタの蒸着技術が高度であったりと,液晶板そのものが複雑であるといえる.
 2層STNカラー液晶は,STN液晶の技術の精度を上げることによって実現したものだ。そのため、生産技術などの面では,技術が確立されており,比較的低コストでの生産が可能となっている.逆に,反応速度や視野角,ドット間の干渉などの欠点を有している.

ASCII1989(08)f05特別カラー液晶図4_W520.jpg
図4 2層STN液晶の階調表現
 2層STNの場合、階調表示は各電極の交点にかける電流の時間の長さの差を利用している.STN液晶では分子が電圧をかけられたと同時に反応するのではなく,徐々に反応するため、電流の流れている時間によって濃度に差が生じる.

カラーTFT液晶

画質は文句なし、問題はコスト

 もう1つの液晶駆動方式が,「アクティブマトリクス」駆動方式と呼ばれるものだ.これは,トランジスタまたはダイオードをガラス板上に積層形成し,それらの素子の増幅作用によって,個々の交点の液晶セルに,直接電圧をかけることができるものだ。この方式では,STN方式で起こった電圧の干渉作用が起こることがなく、より発色のよい画像を得ることができる.
 STN液晶とは好対照だが,TFT液晶では液晶板そのものは非常に単純な作りとなっている.その代わり,電気的な回路が非常に複雑になっている。液晶のねじれ角は90度とTN液晶と同一で,これがTFT液晶の大きな特徴の1つである反応速度の速さを実現している.
 アクティブマトリクス駆動方式液晶には、電圧増幅素子の違いにより2つの方式に分かれる.各液晶セルの電極ごとに,トランジスタを積層したものがTFT液晶(図5),その素子をダイオードに置き換えたものがMIM(Metal Insulator Metal)液晶である.
 TFT液晶とMIM液晶を比較すると,MIM液晶のほうが製造工程が少なくてすむため、コスト面では有利だ。ただし,画質という点ではTFT液晶がやや勝っている.小型カラー液晶テレビは,すでにTFT液晶が主流になりつつある.しかし,コンピュータなどのOA表示装置として見た場合,今後数年間のうちにTFT液晶を実用化するのは無理だろうと,各メーカーでは考えている.何が問題になっているのだろうか.


ASCII1989(08)f06特別カラー液晶図5_W520.jpg
図5 TFTカラー液晶
 液晶物質の背面に配線された電極が,交点に積層されたトランジスタを直接駆動する.液晶物質の前面には金属薄膜の平面電極があり,電圧をかけられた液晶分子は前後に整列し光を通す.
 カラーフィルタの配置にも種々の方式があり,下図では代表的なものをあげた.実質的には2個以上の電極が色のフィルタに対応しており,電極の1つに欠陥があっても,色を表現できるよう工夫されている.

製造技術はLSIと同一

 問題は,コストが高すぎるのだ.大型(10~14インチ)のカラーTFT液晶も,研究室レベルでは製造できるのだが,量産となると話は別になる.ちなみに,現時点での価格は「値段がつけられない」(メーカー担当者)ほど高価だという.
 TFT液晶の製造プロセスで一番難しいのは、いうまでもなくトランジスタの積層化だ。このトランジスタ積層化技術は,基本的にはLSIの集積技術と同一のもの.大きな違いは,その面積だ.LSIの場合,集積化する面積は5×5mm程度.TFT液晶の場合,200×270mmとLSIの約2000倍の面積となる.そして,1個の素子にでも欠陥があった場合、その液晶は使うことができない。
 テレビのような動画像を扱う場合であれば、少々の素子に欠陥があっても,画像の速い動きが助けとなって、あまり問題にはならなかった.しかし,細かな文字・記号・数字を静止画像で映し出さなくてはならないコンピュータ用表示デバイスとしては,ドット1個分の素子欠陥でも、非常に目立ってしまうのだ。
 この理由から,TFT液晶は非常に歩留りが悪く,コストが高くなってしまう.
 2層STN液晶のカラー化で問題となったカラーフィルタの蒸着技術は,TFT液晶の場合,ガラス板上に直接配置するだけなのでそれほど問題とはならない.

TFT液晶の階調表現は?

 2層STN液晶で,カラー多色化に触れたので,TFT液晶の階調表現についても説明しておこう.
 2層STN液晶では,液晶分子配列のねじれが大きくその反応速度が遅いのが欠点だが,反応時間の差を利用して階調表現が可能となっていた.一方,TFT液晶では,分子配列のねじれもTN液晶と同じ90度で,かつトランジスタの増幅作用で電圧を直接駆動できるため,反応速度が高速となる.電流を切った瞬間の液晶分子の再配列の速度も,2層STN液晶が300ms,TFT液晶では30msと,約1/10にもなっている.これでは,反応時間差を利用した階調表示はできない.TFT液晶の階調は,反応時間の差ではなく,駆動電圧の差を利用して行なうことになる(図6).
 2層STN液晶での電流の時間の差を利用した駆動方法では,パルスのオンとオフとの時間比(デューティ比)を大きくするほど,多くの電極を制御できる.実際に製品化されている駆動用LSIのデューティ比は,1/200~1/400.オンかオフかの2階値の場合なら,1個のLSIが同時に制御可能な電極数は200本~400本となる.しかし,8階調になれば,同時に制御可能な電極数は1/8になってしまう.
 TFT液晶では,駆動電圧の差を利用するため,理論的には無段階の階調表示が可能である。2層STN液晶の階調表示方法はデジタル制御,TFT液晶の階調表示方法はアナログ制御ということができる.しかし,いくらTFT液晶で無段階の階調表示が可能でも,液晶物質の透過率が、目に見えるほどの変化をしないため,実質的には8~16階調が限界らしい。もちろん,OA機器用の大画面駆動用ドライバLSIの開発を待たなければならないのは,2層STN液晶の場合と同じだ.


ASCII1989(08)f07特別カラー液晶図6_W520.jpg
図6 TFT液晶の階調表現
 TFT液晶の場合,階調表示は各電極の交点にかける電圧の差を利用している.光の明暗の間が階段状になるよう電圧を調節してやれば,段階的な階調が表現できる.
大面積集積化技術が鍵

 TFT液晶で最も問題となるのは,その製造コストである.大面積にトランジスタを正確に集積できる技術の確立を待たなければならないといえる.
 反面,液晶部の作りは簡単なため、反応速度や発色性,視野角などの点で2層STN液晶を凌いでいる.

コスト=歩留まりの悪さだと思うが、それを解決するためにどれだけ努力したのだろうか。このころの日本の技術は世界最先端だった。何が悪く低落したのか。誰が悪いことをしたのか。

製品化に向けて

 2層STN液晶とTFT液晶には,まだ克服しなければならない問題点が存在している.
 2層STN液晶では,反応速度や視野角などを含めた画質の向上が問題となっており,TFT液晶では,そのコストがネックとなっている(表2)。
 カラー液晶を搭載したラップトップコンピュータが製品として登場するのは,今年末とも来年始めともいわれているが,どちらの液晶が搭載されるのだろうか.各メーカーの話を総合すると,まずは2層STN液晶を使ったものが製品化される.2層STN液晶とTFT液晶を比較した場合,まだ価格にかなり差がでてしまうという.画質がよいということで,それだけの価格差をユーザーが納得するかどうかが問題となる.
 2層STN液晶の場合,反応速度が遅いという欠点もあるが,コンピュータ用表示デバイスの場合,せいぜい画面のスクロールやマウスカーソルの動きが追従できればよいわけで,さほど問題にはならない.
 どちらにしろ,鍵を握っているのはTFT液晶のコストだ。2層STN液晶とTFT液晶のコストが近付いてきた時には,TFT液晶が主流となるのは間違いない。つまり,まずは2層液晶を使った製品が市場に登場し,数年後にTFT液晶の価格が十分下がってきたところで,TFT液晶を使った製品に移行していくだろうという予測が成り立つ。


ASCII1989(08)f08特別カラー液晶表2_W333.jpg
液晶ディスプレイが当たり前になるには何年もかかった。初期の頃はドット抜けが問題された。この液晶技術は相当難易度が高かったのだろう。トップランナーだと思っていたシャープがまさかダメになるとは思わなかった。誰が悪かったのか。間違えても技術者が悪いということはなかったはずだ。シャープを外国に身売りさせた犯人はだれだ。

ティントモード液晶を搭載した
 セイコーエプソンが6月に発売した「PC-286LST」に搭載されている「ティントモードNTN(2層STN)液晶」とは,2層STN液晶の着色防止用のための補償用液晶に,電圧をかけられるようにしたもの.
 この方法では,以前はカラー化にとっして障害だったSTN液晶の着色現象を逆手にとって,わざと色を出すようにし,8階調表示の白黒液晶に,疑似的に薄い緑や赤の色を付けることができる.本稿で取り上げているカラー液晶とはまったく違った技術だ。カラー液晶の表示と見比べてしまうと,さすがに見劣りはするものの、グラフ表示画面やゲーム画面などでは、白黒液晶に比べて非常に見やすくなっている(写真1).
 この液晶は,アプリケーションによって,たとえば,表計算ソフトやワープロソフトでは白黒表示で,グラフ表示やゲビームソフトなどではティントモードでと使い分けができるのも特徴だ。
 ティントモード液晶は,搭載したマシンの価格を比較的低く設定していることもあり(ベースマシンのPC-286LSと価格差にして4万円),液晶を使った表示デバイスの,新しい可能性を示唆したものといえる.


ASCII1989(08)f05特別カラー液晶写真1_W332.jpg

ASCII1989(08)f08特別カラー液晶実際の製品は_W520.jpg
ASCII1989(08)f08特別カラー液晶実際の製品は_W520.jpg
この記事の頃はまだCRTの時代でカラー液晶ディスプレイなんてノートパソコンの一部にしか使われていなかった。
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:パソコン・インターネット

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。