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特集CD MEDIA第1回 その2(月刊ASCII 1988年3月号7) [月刊アスキー廃棄(スクラップ)]

特集 「CD MEDIA CD+Computerでひらける世界」のスクラップの続き。
CDメディアを支える技術
 CDメディアは,音楽記録用のコンパクト・ディスクを基本として,その上に各種のデジタルデータを記録したものである.これを実現したのは、LDなどで使われている光学記録方式と,デジタル化技術,そして誤り訂正技術や各種サーボ技術である.そこで,ここではCDを成り立たせる技術を見てみよう.
 CDは,できるだけ小さく、軽くしたディスクに,いかにして大量の情報を記録するかの工夫の産物である.CDディスク表面(レーベル印刷面)の保護層の下にある厚さ0.165μmの信号記録面には,細かいくぼみが円周上に連続して並んでいる.このくぼみをピットという.ピットの大ささは深さ0.12μm,幅は0.6μmである.ピットの列はディスクの中心から外周に向けて,なんと約20,000周も渦巻状に並んでおり,これを1列に伸ばすと全長約5kmにもおよぶ(図2).
 光学式ディスクに光を反射させたとき,ピットとピットの間隔が光の波長にほぼ等しいため,回折現象が生じてディスク表面が虹色に見える.CDが銀色に輝いているのは反射膜に使われている金属に,アルミニウムが使われているためである.

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この辺のことについては
特集CD-ROM(月刊ASCII 1986年5月号4)
に豊富な図がある。
光記録ってどんなもの?
 光学式ディスクの特徴は,ピックアップからレーザー光を照射し,その反射によって記録された信号を再生することにある.数μmのサイズのピットの列をレーザー光で順次トレースしていくための光学系や制御系の技術は非常に高度なものだそれをここまで小型化できたというのは,半導体レーザーと各種サーボ技術があったからである.
 ディスクの物理的形状のバラツキ,反り,部分的な凹凸,偏心といった成形不良,保存状態によるディスクの歪みなど,信号読み取りを妨げるさまざまな要因が考えられる.そこでCDでは,これらを補正するために以下の方法を取り入れている. (1) 回転サーボ:データを読み取る際に蓄積されていく時間的誤差を補正する. (2) トラッキングサーボ:ディスクの半径方向のビームの方向を修正する. (3) フォーカスサーボ:焦点位置を変え,フォーカスを合わせる.これらのサーボ技術によって,ディスクとプレーヤの相性などを気にせず,ソフトを使用することができるのである。
 CDメディアはLDでいうCLVでいう線速度一定,信号を読み取る速度が一定,つまりディスクの回転数を連続的に変化させ,外周になるほど遅くしている――であり,回転数はLDより遅くなっている.外周部では230rpm(1分間に230回転)で,内周部では530rpmである.ただしCDVは変則で,映像部分と音楽部分で回転数が異なっている(表3).

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エラー補正
 CDに記録される信号には,エラーの検出・補正を行うために,さまざまな処理がされている.ディスクに記録された信号の誤り発生率は,ビットエラーレートと言われる.これは,ディスクに記録された総ビット数に対する誤りビットの数で表現される.CDメディアのビットエラーレートはそのままでは10-3~10-4程度だが誤り訂正を施すことによって,この値を10-9まで下げることができる.これがCD-ROMになると,データを記録するためにさらに高い信頼性が必要となるので,CD-ROM独自のエラー訂正を加えることで,10-12というエラーレートを実現している.
 コンパクト・ディスクでは、再生される信号が音声であるため、エラーはほとんど気にならないが,CD-ROMになるとビット落ちやキャラクター化けとなり,致命的なエラーとなる.CDIになると,ディスク上にコントロールソフトまで記録されているので,その影響はさらに大きい.そこで,CD-ROMではディスクをカートリッジに入れて使用する方法が主流になりつつある.カートリッジに入れることによって、ビットエラーレートは、3~4ケタ改善される.

エラー訂正符号(CIRC) 特集CD-ROM(4)(月刊ASCII 1986年6月号9) 
CDメディアの正体
 CDの物理的なカタログ・スペックは,表4のとおりである.ここではそこに現れない仕様に関する話題をまとめてみた.

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ディスクのサイズ(直径)
 なぜ、CDの直径は120mmなのだろうか?いわゆるカセットテープは,フィリップスが基本特許を持っており,正式名称は「コンパクトカセットテープ」という.CDは,このカセットテープと同じ設計思想に立っているのである.フィリップスが提案した初期のCDのモデルは、カセットハーフの斜辺の長さと同じ115mm径のディスクであった.しかし,CDは製造工程上,外周部分に気泡が入りエラーが生じやすいという性質を持っている.特に製造上のノウハウが蓄積されていない初期の段階では,少しでもディスクの直径を大きくする方が有利であった.そのため,120mm径ディスクを主張するソニーとフィリップスの再三の検討の結果,現在の120mm径におちついたのである(図3).
 ただし,従来のLPが外周から再生するのに較べ,CDは内周から再生しているため,ディスク径を変更してさらに小型化することは容易だといえる.
 コンパクトディスクの理論的最長記録時間は74分42秒である.この値は技術的に決定されたものではなく,ベートーヴェン作曲の第9交響曲を収録できることという要望からなされているという.
 指揮者によって異なるが,フルトベングラー指揮の「第9」で演奏時間が74分41秒だというから,これが最長のコンパクト・ディスクであろう。なお1枚のコンパクト・ディスクに記録できる楽曲の数は最大で99曲である.

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「ベートーヴェン作曲の第9交響曲を収録できる」この話は有名だ。多数が知っているトリビアというところだ。
信号記録面の材質
 CDを長期保存した場合,ディスクに経年変化は生ずるだろうか?ディスクの寿命は,いったい何年くらいなのだろう?この疑問に対する解答は,現在では推論の域を出ないようである.なぜならCDは誕生してまだ日が浅いため、実例によって証明できないからである.それでも,理論的に劣化の原因となるものの1つに,信号記録面の金属反射膜の酸化がある.いわゆる「さび」である.そこで,一般のCDでは材質にアルミニウムが使われているが,これを「金」にしたディスクも使われている.さびが生じて信号が劣化してからでは遅い,というわけで,長期保存性を要する特に重要なデータを記録するCD-ROMなどに使われるであろう.
 CDはポリカーボネイト製のディスクであるが,LDはアクリル製である.ディスクの材質は,物理的な特性として耐熱性,耐湿性,成形性に優れ,光学的特性も考慮されなければならない.アクリルは光学的には良いが、吸水性があり、時間が経つとディスクが反るという欠点がある.それを解決するためLDでは,片側に信号を記録した2枚のディスクを接着剤で貼|り合わせ,ディスクの歪みを打ち消している.ポリカーボネイトは吸水性がなく、湿気により変形しないので,より長い寿命が期待できる.
もう34年も経ったので実例があるのではないかと検索すると沢山ヒットした。先に出てきた2件をメモっておく。

レファレンス事例詳細(Detail of reference example)
CDは何十年か経つと聴けなくなるという話を聞いたことがあるが、どれぐらい経つと聴けなくなるのか?何が原因で聴けなくなるのか?長持ちさせる方法はあるか?

FINDERS
ケースから取り出したらCDが劣化し白濁。30年前のCDが寿命を迎えているかもしれない件

デジタル信号をCD、FD、HD、SD等のメディアに移して残すと劣化の問題がある。今のようにいろんなところの複数の媒体に記録してあれば今後も残る。形を変えて残せば永久的に残るだろう。
CDを作る
 CDの製造工程は,大きく3つに分けられる.プリマスタリングとマスタリング,スタンプである.マスタリングとは、プレスに使用する金型を製造するまでの工程である.この金型を使って,実際にディスクを製造するのがスタンプである.ここまでの工程は,すべてのCDメディアに共通である.
 これらの工程の前に,プリマスタリングが必要となる.プリマスタリングは,メディアによって多少異なっている.コンパクト・ディスクの場合は、デジタルマスターテープに記録された信号を,CDマスターテープへのフォーマットおよびサンプリング周波数に変換することを指す。CD-ROMでは,MTに記録されたデータに,CD-ROM規格の同期信号,ヘッダおよびエラー訂正コードを構成する.このプロセスは,基本的にCDメーカー内部で行われている.CDIではさらにこの前に,CDI規格に合わせてデータの圧縮,およびエンコーディングの工程が必要となる.
 磁気記録メディアと異なり,CDはスタンプで複製するので,少量生産には向かないメディアであるといえる.短時間に大量の複製を作ることが可能なので,容易に単価を下げられる反面,複製が数10枚程度しか作成されないのなら、高価なものとなる.CDは出版物と同じ性格を持っているわけだ。このことに加えて,巨|大な記録容量や,生産にクリーンルームなどの特殊な設備が必要ということから,CDメディアは違法コピーや海賊版が作られにくい。
CDRが登場するまではこれが適用されたが、CDR、DVDRが登場してからはコピーが蔓延ることになった。
CDメディアを利用した規格たち
 コンパクト・ディスクに始まる各種CDメディアは,さまざまなバリエーションを生み出している.既に実現しているものもあるが,中には単なる希望もあるだろう.ここでは,最後の話題として,技術的な可能性にはあまりこだわらずに,さまざまなものをとりあげてみた.
★CDV(CDビデオ)
 一般のCDやLDが銀色であるのに対し,金色のディスクがCDVである.CDV規格は,1986年にフィリップスにより提案され,1987年に商品化された.CDVの映像はLDと同じアナログ信号でディスクに記録されている.音声信号は、1枚のディスクの中に記録方式が混在し,映像部分の音声はデジタルサウンドLDと同じ方式で,それ以外の音楽部分は通常のCDと同じ方式で記録されている.そのため映像部分と音楽部分ではディスクの回転数が異なり,映像/音楽再生中にランダムアクセスを行うと,やや時間がかかる.CDとCDV,LDを再生できるコンパチプレーヤも発売され,CDVの将来は期待できるが,まだソフトの数が少なく、なかなか増えてこないことが,悩みのひとつである。
★CDシングル
 コンパクト・ディスクの特徴である1枚のディスクの記録時間が長いことが,逆に問題となる場合もある.コンパクト・ディスクが音楽ソフト業界の主流となった現在,新人歌手のように,コンパクト・ディスク1枚分の楽曲をそろえることができない場合は,なかなかアルバムが発売できない.その対策として,音楽業界が中心に提唱しているのが80mm径のディスクを利用するCDシングルの規格である.ところがCDシングルはもう1つの可能性を開いた.CD-ROMでも,500Mbytesをうめる必要がなく,むしろディスクを小型化したいケースがある.特に小規模DB的なアプリケーションに向けて,CD-ROMシングル(?)とでもいうべき規格が実現する可能性が高いというわけだ.
★CDグラフィックス(サブコードCD)
 サブコードは,基本的にプレーヤの制御信号である。CDの信号はシーケンシャルに記録されているので、ランダムアクセス機能を実現するために設けられた信号が,サブコードである.P~Wという名称の8chがあり,Pchは頭出し用のフラグで,Qchには各種制御情報が記録されている.残りのR~Wchを規格化したものが,CDグラフィックスである.音楽再生と同時に,文字や簡易グラフィックスを表示することが可能なので,現在はもっぱらカラオケCDの歌詞表示用に使われている.しかし,再生システムが特殊化されており,それ以外のアプリケーションでは使いにくい規格である.
★DVI
 DVIはDigital Video Interactiveの略である.これは、CD-ROMディスクに記録するデータを規定したもので,旧GE/RCAラボが1987年に発表した規格である.画像データを1枚あたり5Kbytesに圧縮することで、1時間分のデジタルのフルサイズ(全画面),フルモーションの自然画動画が記録できる.通常のビデオ信号(NTSC)は、1秒あたり30枚の映像から成っており,CDメディアは1秒あたり150Kbytesのデータの転送が可能なので,画像1枚あたりのデータ量が5Kbytes以下に圧縮できれば,テレビ並みのリアルタイム動画がデジタル画像で実現できるわけだ(CDIではフルサイズの自然画アニメーションは不可能).
 DVIソフトの再生は,12MIPSというスーパーミニコン並みの演算速度を持つ専用LSIで行う.リアルタイムで画像データを伸張するためには,これだけのパワーが必要となるのである.DVIの映像と音声のシンクロナイゼーション(同時再生)は,以下の方法で実現されている.DVIの音声データは,現在は4ビットのADPCMで行われているが,ディスクから画像データと音声データを同時に再生することはできない.そこでDVIでは,音声データを最初にメモリにロードしておき,次に連続して画像データを読みだすことで,フルモーションの音声付き動画の再生を実現する,という手法をとっている。
 つい先頃,電子出版協会の主催でDVIデモンストレーションソフトの展示会が行われたが、画質はだいぶ向上していた.あとは,いかに安くソフトを制作できるか,いかに安く再生用チップを供給できるかが問題であろう.
★イエロー・グリーン
 CDIのオーディオ機能のLSIをCD-ROMシステムに組み合わせて使用するアイデアである.最近になっていくつかのメーカー間で検討され始めたようで,実現は早いと予想される.
 再生システムとしては,CDIのオーデイオチップを使ったADPCMボードを搭載したパソコン,という形になると思われる.ディスクの規格は基本的にCD-ROMで,CDIフォーマットのADPCMデータと,CD-ROMの画像もしくは文字データが混在することになる.
 CDI規格が実現した画像と音の同期を犠牲にしてしまうというデメリットはあるが,その分データ作成はCDIより楽になり,既存の設備でソフト制作が可能という大きなメリットを備えている.CDIのBレベル音声を使用すれば,1枚のディスクにステレオで4時間記録できるため,このイエロー・グリーンのアプリケーションとしては、長時間カラオケや語学教材などの分野で,大きな需要が見込まれると考えられる。
★CD-VI
 DVIの登場に対して,急遽フィリップスよりアナウンスされたのがCD-VIである.とはいえ,これは正式な規格として発表されたわけではない.CDV規格は5分間のアナログ映像と20分間のCD-DA(デジタル音声,コンパクト・ディスクと同じもの)が記録できるが,このCD-DA部分に,CDIフォーマットでデータを記録して利用しようというものがCD-VI(またはCD-IV)と呼ばれているものである。
 これによって、5分間という短時間ではあるが,CDIにもフルサイズのアナログ映像の再生が可能になる,というのがフィリップスの主張である.
 ただし,CDIシステム自体が具体化していない以上,それを発展させた規格という動きはありえないとして,多くのメ-カーは当初,CD-VIに対して冷やかな態度をとっていた.ところが,あまりにも動かないCDIにしびれを切らして,実現の検討を開始するメーカーも現れたというウワサである.
★CD-X
 CD-Xは、CD-ROMのソフトベンダーの間でささやかれている「伝説」のひとつである.CDIのシステムにDVIのチップを組み込むことで,CDIの豊富な音楽機能とDVIのフルモーション・フルサイズの動画を実現しようという,両規格のおいしい所だけを組み合わせた虫のいいアイデアである.
 ただし,フィリップスとしては,「DVI技術はまだ未完成で,あの程度の画質の映像しか表示できないものとCDIがドッキングすることはない!」と否定的な態度をとっている.またCDIシステムは拡張性を前提としていないので,外付けボードという形も考えられない.伝説は伝説のままで終わりそうである.

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まあ、よくもこんなに派生の規格が提唱されたものだ。これらのうちどれが市場に登場したのか、こういったものを使ったことがないので分からない。
CDメディアの将来
 CDメディアに関する話題で今一番注目されているのは、CD-ROMシステムの標準化問題であろう.標準化には以下の側面がある.
(1) CD-ROMディスクを再生するハードウェア(パソコン,CD-ROMドライブ,インターフェイス).
(2) CD-ROMディスク上の論理フォーマット.
(3) CD-ROMからデータを読み出すソフトウェア.
 (2),(3)についての詳細は次号に譲る.現在はタマゴとニワトリのたとえではないが,ドライブの普及台数が少ないので,マスマーケットが期待できず,CD-ROMのアプリケーション開発は制限されてしまう.おもしろいアプリケーションソフトがなければ,ユーザーはドライブを買わない……こうした悪循環が起こっている.次々に規格ばかり発表して,ユーザーを混乱させるメーカーの姿勢も問題だと思うが,少なくとも標準化により,パソコンの外部記憶装置としてのCDROMの役割は,ますます重要なものとなろう,いや,なってほしいと切に願っている。
 たいへん駆け足ではあるが,CDメディアの歴史と現状,およびその動向を眺めてきたCDメディアは,予測の立てにくい状況であるが,今年5月までには方向が明確になると考えられる.そのきっかけになると考えられるのが,3月に開催される米国Microsoft主催の「CD-ROMコンファレンス」と、5月に開催される「OS-9コンファレンス」におけるCDIの動向であろう。
ここまで読んで途中忘れていたことに気が付いた。この記事は一般パソコンユーザがCD-ROMドライブを外付けする前の時代だった。CD-ROMドライブを内蔵したパソコンはまだ発売されていない時代だった。
こうして色々な規格、使用法のアイデアを出し合っていたのか。ASCIIの付録にCD-ROMが付いてくるのはいつ頃だったのかを確かめるのもスクラップの楽しみだ。



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