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特集「ソニー(株)土井利忠氏インタビュー」(月刊ASCII 1988年9月号5) [月刊アスキー廃棄(スクラップ)]

特集記事のスクラップ2回目。
ソニー(株)取締役スーパーマイクロ事業本部長
コンピュータサイエンス研究部長
土井 利忠 氏インタビュー
記事をスクラップする。
ASCIIはRISCに期待して持ち上げているように感じたが、土井氏は当時冷静にマイクロプロセッサ環境を把握し、未来を的確に予想していたことがわかる。
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この「現在は未知数だ」をどう解釈するかだ。ASCIIは未知数だから発展する未来が見えるというポジションに立っていたと感じられた。土井氏は未知数だから金を突っ込むわけにはいかないと引いたポジションに立っていたと感じられた。
Intel,Motorol,RISC 現在のCPUは3つに分類できる
――マイクロプロセッサ,特に32bitの市場をどのように見ているか?
土井:現在のマイクロプロセッサ市場は大まかに見ると,Intel系,Motorola系のCISC,それに各社のRISCプロセッサという3つの分野に分けて考えることができる.
 Intel系は80386が普及期を迎えているが,このCPUについて特にコメントするような点はない.当社がMotorola社の68000ファミリを採用しているという点を抜きにしても,市場にすでに導入されて成功を収めつつあるCPUだから,現時点で評価することはあまりない.それよりも,1989~1990年に発表される予定になっている80486については注目しているし,ある程度のデータを入手して検討を加えている.
 また,最近発表された386SXは,目新しいアーキテクチャを採用しているわけではないが,価格という点でなら注目できるだろう.
 一方のMotorola社は,まずCISC系の68040について,詳細なデータをすでに入手している.当社は,設計段階でMotorola社に対していろいろな要求を出している.特に,並列処理の部分の仕様については1990年代のワークステーション環境という観点から,各種の要求を出している.68040は,現行の68000ファミリの延長線上にあるCPUだが,大きく異なっているのは,RISCを非常に意識した設計になっているという点だ.守秘義務があるので,これ以上のことは言えないが,RISCの挑戦を受けて立とうという姿勢が明確になっているCPUだと思う。
――NEWSの次機種がCISCを採用するか,RISCを採用するのか,興味深いが?
土井:1990年代にRISCがどのような展開を見せるか,という点についてはまったく分からない状態だ.
――RISCを採用するのでは,という観測もあるが?
土井:NEWSの次機種については,もちろんCISCである68040を採用することにしている.68000ファミリというCISCでNEWSシリーズの製品展開を図るという戦略に変わりはないが,そこにRISCをどのように投入していくのか,という点が難しい.
このインテルCPUについて80486と386SXを的確に評価していた。こうして34年後に記事を読んでいると良く分かる。ソニーがモトローラに対して設計段階で要求を出せる関係にあったということは34年前読んでいたはずだが記憶に残っていない。あまり関心がなかったのか。この当時もう68000系CPUを積んだパソコンを買うことはないと思っていたからだろう。
インタビュアーがしつこい「―NEWSの次機種がCISCを採用するか,RISCを採用するのか,興味深いが?」「RISCを採用するのでは,という観測もあるが?」土井氏はRISC採用に消極的だろう。このインタビュアーはRISC推しだというのが感じられる。

RISCのメリットは、開発のサイクルタイムが早いこと
――RISCを採用するとしたら,問題になるのはどんな点か?
土井:RISCにおける技術的なポイントは,コンパイラの最適化という点だろう.80386や68030といったCISCベースのCPUでは,コンパイラは単純にコードを変換して,CやPascalなどの高級言語からマシン語へ1行ずつ翻訳していくだけだが,RISCでは,高級言語からマシン語の命令へコードを翻訳する時に,CPUのパワーを最大限に引き出せるようにコードの構成を組み替えている.これがコンパイラの最適化ということになる.
 ところが,現在のRISCで問題なのは、RISC自体のアーキテクチャの作成と最適化コンパイラの作成がキッチリと合致していないことだ.RISCは,とにもかくにもゲート数が少ないというメリットを生かして,非常に短いサイクルタイムで開発が進んでいる.サイクルタイムが短いからこそ,進歩が早いというのがRISCを使う時のメリットになっている.しかし,コンパイラの最適化という技術を抜きにしてはRISCを語ることはできない.RISCと最適化コンパイラは,表裏一体のものと言っても過言ではない.RISCの最適化コンパイラに関しては,ここ1~2年で格段に水準が向上しているが,RISCチップの開発が短期間でできるのとは裏腹に,長年の蓄積が必要であるため,急速に開発したものは成熟度が低いまま市場に出ている感じがする.
 RISCのアーキテクチャには,スタンフォード大学の流れ,カリフォルニア大学バークレイ校の流れ,IBM社の801プロジェクトの流れ,CRAYの流れという4つの潮流がある.Sun Microsystems社のSPARCは,レジスタ・ウィンドウイングというアーキテクチャに関してはバークレイ校の流れにあたるが,最適化という点ではスタンフォード大学の流れも取り入れている.AMD社のAm29000は,ごちゃごちゃとすべての流れを取り入れたような感じだ.Motorola社の88000は明らかにCRAYの流れだろう.CRAYは,命令をワイヤードロジックで実行しているから一種のRISCと見なすこともできる.

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過去に記事にはない実際にワークステーションを作っている技術部門の解説が良い。34年前は分からないことだったがこうして未来から過去を見ると土井氏の発言の精度が高いことが良く分かる。しかしインタビュアーの質問がうざい。

RISCをめぐる2つの問題点
――CISCか,RISCかという論議をする場合,ほとんどは処理速度や,プログラミングというレベルで両者を比較するのが一般的だが?
土井:RISCはアプリケーションによっては,高速処理ができるのは事実だ.逆に一部のアプリケーションではかえって低速になるという批判もある.しかし,本当に重要だと考えているのは,RISCが産業構造的に成り立つのかどうかという点だと思う。例えば,68020は年間150万個くらい製造されている.そのうち,ワークステーションに使われているのは10%以下でしかない.残りの90%以上は,各種の制御機器や周辺機器に使われている.Motorola社から見れば,こうした分野で売れなければCPUは商売にならない.こういった分野などで数量をさばいて,価格が下がったところでワークステーションに使えるようになる.CISCにしても,RISCにしても,こうした状況に変わりはない.半導体業界というのは,ワークステーション用の10万個や20万個という数量で成立するような産業ではないということだインテルの80386にしても,パーソナルコンピュータ用だけで同じくらいの数量を製造しているからこそ商売になる.
 以前に,ある会社が,ソニーにRISCチップを製造してほしいと申し入れてきたことがあった.彼らは「年間10万個は売れる」と意気盛んなわけだが,大量のコンシューマ商品の製造に慣れたソニーという半導体を製造する側から見れば,「たった10万個か!」という印象を持ったようだ.製造する数量が1桁違う)結局,この提携話はつぶれてしまったわけだが,彼らは,そうした数量の問題があんがい分かっていないのではないかと思う.そうしたことをちゃんと分かって,RISCを商売にしようとしているのは、Motorola社とAMD社くらいだろう.その他のメーカーでは,例えば,Sun Microsystems社やMIPS社が,SPARCやR2000などをコントローラ用に年間150万個売ろうとしても,まず第一にセールスチャネルを持っていない.はたしてコントローラ用などのリアルタイム制御にSPARCやR2000が使えるのだろうか,という技術的な議論の前に販売できないという力の問題がある.RISCが普及するかどうかという論議には,技術的なレベルでうんぬんする以前に,商業ベースに乗るかどうかという大前提があるわけだ.
 技術的に言っても,多くのRISCチップが,リアルタイム系のコントローラとしてはちょっと不向きだという意見もある.そうなると,ますます数量は望めないことになる.

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ここのあたりも34年前は頭に入っていなかった。「68020は年間150万個くらい製造されている.そのうち,ワークステーションに使われているのは10%以下でしかない.残りの90%以上は,各種の制御機器や周辺機器に使われている.」こういった事実も全く記憶していなかった。「インテルの80386にしても,パーソナルコンピュータ用だけで同じくらいの数量を製造しているからこそ商売になる.」大事なことだ。「半導体を製造する側から見れば,「たった10万個か!」という印象を持ったようだ.製造する数量が1桁違う)」なるほどなるほど。PC-9801が100万台売れたとしても日電のV30からV60に移行するとなるとまた100万台売れなければV60は商売にならないということか。日電が自社製のCPUを使っていくことができなかったのも分かる。

一番大きな問題は製造技術と歩留り
――もう一つの問題は?
土井:隠れた問題として,われわれがもっとも憂慮しているのは,実はイールド(歩留り)現在のところ,使えるRISCチップはすべて米国製で,だいたい1.2~1.5ミクロン・プロセスの製造技術を使っている.もちろん,すべてCMOSだ.こうした製造技術でイールドが高いのは米国内では数社しかないという話もある.Cypress社のCY7C601のような0.8ミクロン・プロセスの製造技術が必要なフルカスタム版のSPARCチップだと,イールドが低いために値段が非常に高くなる可能性がある.CISCよりも集積度が1桁くらい小さいRISCが,イールドで悩むというのは意外な感じがするかもしれないが,それほどギリギリのところで製造しているのがCPUだと言える.米国の半導体メーカーの中には,このようなイールドの問題で,評価版も出てこないという深刻な事態が考えられる.RISCについては,こうした半導体製造の問題が,もっとも大きいと考えている.
 まとめると,RISCには,(1)数量の問題,(2)イールドの問題――という2つの懸案事項があって,これらをちゃんと把握していない半導体メーカーが多いのではないか,というのがカスタマー側から見た感想だ.これらの問題が分からないまま,半導体メーカーは大キャンペーンを展開しているとしたら危険だ.
 技術的に見ても、(2)に関連して数量を増やそうとすると,コントローラ系に使えるようなチップでなければいけない.しかし,そうするとアーキテクチャが最適ではない.要するに,Cコンパイラで最適化できるチップと,コントローラ用に安く製造できるチップという両方の要求を満たすのはなかなか難しい.こうした落とし穴があるにもかかわらず,RISCのメリットばかりを強調するのは危ないのではないか,ということだ.
 結論を言えば,米国のワークステーション業界では,RISCマシンの評価はまだ定まっておらず,今後も注目していく必要があるだろう.

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34年後に土井氏のインタビュー記事を見ると精度の良い分析があったのに当時の私は何も知らないでRISCが主流になれば良いな。8086系CPUがなくなれば良いななんて能天気にも思っていた。

それでも|RISCの将来性は十分ある
――RISCが抱えている現在の問題点は分かったが,その将来性はどうか?
土井:今はCMOS全盛の時代だが,例えば,CISCには応用しづらいECL(Emitter Coupled Logic:バイポーラ形IC)やガリウムひ素の技術が,RISCであれば適用できる.10万ゲート規模のCISCをECLで作るのは非常に難しいが,1万ゲート規模の集積度であればCISCよりも楽に作れるということはある.そうなれば、処理速度は50~100MIPSという高速を実現できる.ゲート数が少ないというRISCのメリットは,そういうところに活路を見出すことになるのではないか。
――そうすると,現在のRISCはあくまで試験段階の域を出ないということなのだろうか?
土井:それは,冒頭で述べたように明確に言い切れない.事実,われわれは今年の4月にRISC研究の専門部隊を作った.RISCが今後,どのように展開するかは未知数だが,対応はきちっとしておきたいと考えている.ECLのRISCで100MIPSという処理速度は,そんなに難しくはないが,CISCで100MIPSを実現するのは難しい.だから,RISCの可能性を完全に否定することはできない.もちろん,CMOS全盛の現在でも,RISCが急浮上するような可能性が残っているかもしれない.ちなみに,当社でRISCを製造する場合は,コンパイラも自社製にする.現在のRISCでは,コンパイラの開発を他社に依頼しているところもあるが,これでは安心して使えない、あくまでRISC=コンパイラという図式は守りたい.現在のNEWSにしても,Cコンパイラは社内で開発している.
――MIPS値が出たところで,RISCの処理速度という点で何か問題は?
土井:これはRISCに限ったことではないが,各社が公表するMIPS値には一定の基準がない.NEWSのMIPS値は,Dhrystoneのベンチマーク値のVAX11/780との比をMIPS値の基準にしている.
 RISCの処理速度が速いとはいっても,各社のMIPS値が一定の基準にのっとって発表されているわけではない.それに加えて,特定のベンチマークだけに対してだけ速い結果を出すRISCもある.だから,処理速度という点だけでRISCを評価すると,結局,アプリケーション次第で変わるということになってしまう.
――SPARCなどのRISCチップを実際に評価して感じたことは?
土井:市場に出たRISCチップを見て感じたのは,コンパイラの最適化技術というものは,短時間で実現できるものではないということ、前述したように,当社でRISCチップを作る時は、コンパイラは必ず社内でキッチリと対応したい.
「それでも|RISCの将来性は十分ある」とは、このインタビューでどこに「十分ある」と感じられる部分があったのだろうか。「否定はできない」と感じるのではないだろうか。見出しによるミスリードもいい加減にしてほしい、これほどRISCを贔屓する記事とは。

1990年代は、ポストUNIXが焦点になる
――ソフトの開発といえば,RISCとUNIXをめぐる動きが活発だが?
土井:米国AT&T社とSun Microsystems社の連合に対してOSF(Open Software Foundation)が結成された.しかし,当社ではUNIXに対する投資は一切行わない.標準化をめぐるAT&Tを中心にしたグループに対しても,その他のグループに対しても中立の立場を堅持したい.業界標準が定まれば,それにキッチリと対応してサポートするというのが当社の方針だ.UNIXは,メーカー間のポリティカルな動きが目立ちすぎる.その政治の中に巻き込まれたくないというところだ.5~10年後にはUNIXは無くなっているかもしれない.そういった意味で,RISCをめぐるUNIXの動きについては,あまり期待していない.先頃,当社が設立した「コンピュータサイエンス研究所」は,UNIXの次のシステム環境を考えるために作った.
――UNIXの次はどんなものか?
土井:当然,水平型分散処理がテーマになると考えている.カーネギー・メロン大学の分散並列処理環境であるMachが浮上してくる可能性が強い.この研究所は,その次のオペレーティング・システム,特に商業用にも使えるオペレーティング・システムはどうあるべきかというテーマに基づいた研究を行う.最終的にはメインフレームに水平型分散処理が置き換わると考えている.
――最後にまとめると,ソニーとしてはあくまでCISC路線を継承しながら,RISCについても,ある程度の研究・開発はやるということか?
土井:その通りだ.現在,市販されているRISCチップは,鳴物入りで喧伝されている.ところがよく調べてみると,本来のRISCのメリットが,まだ完全に消化されていなかったり,商業的に成功する可能性を疑問視されるものが数多くある.だが,将来のCPUの大部分がRISCになってしまうという可能性も否定できない.当然,RISCの研究・開発は,鋭意取り組んでいく。
 また,水平分散型処理環境の将来を考えると本格的な分散処理オペレーティング・システムが重要になってくるし,コンパイラの最適化についても地道で継続的な研究が必要になるだろう.
 しかし,短期的には80386や68030,68040のようなCISCチップで地道なビジネスを進める.

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水平型分散処理でMachが出てくるのか。まとめ部分を読むとRISCの未来は遠いと、歴史のとおりだと。このとき土井氏の見る未来が正鵠を得ていた。

コラム記事をスクラップする。
RISCをめぐるUNIXの統合化の動き
 UNIXの標準化をめぐって,米国AT&T社と米国IBM社の対立が注目されている.事の起こりは,AT&T社がSun Microsystems社と協力して,System VとSunOS(4.2BSDがベース)を統合したSystem Vリリース4.0を来年夏の完成を目標に共同開発すると発表したことに始まる.リリース4.0は,SPARCアーキテクチャに最適化したオペレーティング・システムになる見込で,両社は,今年9月から開発者向けの技術コンファレンスを開催するなど具体的な情報公開を開始する予定だ.
 これに対して,IBM社,Apollo社,DEC社,HP社など欧米のコンピュータメーカー7社は一斉に反発,今年5月にOSF(Open Software Foundation)を発足させた.OSFは,来年の末をめどに標準UNIXを完成させる計画で,現在急ピッチで開発を進めている.OSFを設立した当初にまとめた仕様であるLevel 0の機能を含んだバージョンの開発は各社が着手しており,Apollo社はDOMAIN/OSをLevel 0に準拠させて今秋にも完成させる計画だ。UNIXの標準化をめぐるこうした覇権争いの背景には,RISCチップの存在があることは無視できない.


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