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電子スチルカメラ(月刊ASCII 1989年2月号4) [月刊アスキー廃棄(スクラップ)]

特集記事があった。「Electronic Still Camera」だ。
「10万円を切る電子スチルカメラの世界」
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この頃はまだデジカメ(デジタルカメラ)という用語はなかったようだ。
現在のデジカメとどう違うのか記録する。スクラップしておき、電子スチルカメラがどうなってデジカメに進化したのかを調べる。
電子スチルカメラは、'81年にソニーが発表
 '81年8月,ソニーが「MAVICA(マビカ)」(写真1)という名称で発表した電子スチルカメラシステムは,内外に大きな反響を呼んだ既存の銀塩フィルムカメラの組み合わせに対して,電子スチルカメラは、レンズを通して入ってくる光(像)をMOS(Metal Oxide Semiconductor)やCCD(Charge Coupled Device)などの撮像素子で受け,2インチサイズのフロッピーディスクにそれを磁気記録し,テレビモニタで再生したり,ビデオプリンタでハードコピーが出力できる.最近になって,10万円を切る低価格の電子スチルカメラを3社が発表した.さらに,旭光学やオリンパスなど数社が,1~2年以内に発表する予定だ.業務用は,'84年頃からソニーやキヤノンなどが製品化しているが,価格は50万円以上と高かった。
 家庭用の低価格を実現できたのは,静止画記録メディアのフォーマットを統一できた点が大きい.規格統一によって市場形成の母体ができたため,光学メーカーやビデオメーカーが中心になって製品化に拍車がかかっている.


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42年前に電子スチルカメラは登場していた。マビカは知っていた。当時は仕事には全然使い物にはならず、趣味として使うのはためらわれるような低性能だった。
電子スチルカメラ懇談会の設立
 ソニーが「マビカ」を発表した2年後の'83年2月,国内・外のメーカー20社(注1)が集まり,「電子スチルカメラ懇談会」を発足した。同懇談会は,'84年5月に「電子スチルカメラ用磁気ディスク」規格を統一(参加メーカーは32社).'86年には音声・デジタルデータを記録するオプショナル仕様を追加(同42社),'88年7月にハイバンド・ビデオ記録仕様をオプションとして追加している(表1).この間に、'84年にソニーがロサンゼルスオリンピックで実用化し,以後,業務用途で利用され始める.同懇談会は,'88年7月現在で42社に達している.
 同懇談会は,発足早々に,静止画記録メディアの統一フォーマットとして,2インチフロッピーディスクを記録メディアとして採用し,「スチルビデオフロッピーシステム」という名称を与えている.

ロス五輪で実用化?にわかには信じられない。
注1 電子スチルカメラ懇談会のメンバーは,旭光学,BASE,キヤノン,カシオ計算機,チノン,シチズン,コパル,コロムビア・マグネプロダクツ,大日本印刷,イーストマン・コダック,エルモ,富士写真フィルム,日立製作所,日立マクセル,旭化成バーベイタム,キーストン・カメラ・オブ・ジャパン,コニカ,京セラ,松下電器,マミア光機,三菱電機,ミノルタカメラ,ニコン,日本電気,日本電気HE,日本ビクター,日本ポラロイド,オリンパス光学,フィリップス,リコ一,三協精機,三星ジャパン,三洋電機,精工舎,シャープ,スペイスワイド,住友スリーエム,セイコーエプソン,ソニー,TDK,東芝,トンプソン・ジャパンの42社.

統一規格スチルビデオフロッピーシステム
 10万円を切る低価格電子スチルカメラは,同懇談会で規格統一した「スチルビデオフロッピーシステム」に対応しており,機器は異なっていてもメディアの互換性は確保している.統一された規格を見てみよう。
フロッピーディスクは2インチ
 フロッピーディスクは直径5cmで,3.5インチフロッピーディスクと同じようにプラスチック製のジャケットに収納されている(写真2).ジャケットのサイズは54(W)×60(H)×3.6(D)mmで,3.5インチに比べて大きさは約3分の1.54mmという幅は,クレジットカードの縦のサイズとほぼ同じだ。メディアの磁気記録媒体にはメタルパウダーを用いて,さまざまなデータ記録に耐えるように配慮している。
 ディスク上には、50本のメイントラックと1本のキュー専用トラックが同心円状に配置されており,1つのトラックを単位として映像・音声・デジタルデータなどが記録できる(表2).
 メイントラックは,主に映像・音声・デジタルデータの記録に使う.キュートラックは、メイントラックをコントロールするためのデジタルデータ記録専用に用いられる.キュートラックは第52トラックに設けられている。トラック容量は,メイントラックと同じ,第51トラックは、未定義になっており使用しない(図1).
 ヘッドは,回転する2インチフロッピーディスクに対して半径方向に直線的に移動する機構を採用しており,記録・再生の時は任意のトラックを指定することによってヘッドがその位置まで移動・停止し、記録・再生を行う。
 トラックは、映像を記録する場合,50本のメイントラックをフルに使うことができる。1本のトラックには,全走査線(NTSCでは525本,PALでは625本)のうち,1本おきの走査線(NTSCでは262本,PALでは312本)である1フィールドが記録できる.全走査線の映像を記録するためには,隣合った2本のトラックを組み合わせて使う映像の記録・再生は,1トラックのみを使うフィールド記録と,2トラックを使うフレーム記録の2通りの方法が選択できる.フィールド記録を使う場合は、1枚のディスクに50枚までの映像を記録できる。一方のフレーム記録では、1枚のディスクに25枚しか記録できないが,映像の品質は向上する.低価格の電子スチルカメラは、フィールド記録を採用している(注2).


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表2 トラックパターンの規格
ディスク外径 47mm
回転数 3600rpm(NTSC)
トラックピッチ 0.1mm
トラック幅 0.06mm
メイントラック数 50本
最外周半径 20mm
最内周半径 15.1mm
キュートラック数 1本
キュートラックの半径 14.9mm

注2 フレーム記録を採用して2つのトラックを同時に記録・再生するには,ヘッドは0.1mmの間隔で,2つのギャップとコイルを持たなければいけない。こうしたヘッドはすでに開発されており,ソニーの「プロマビカ」に搭載されている.

映像記録はFM変調のアナログ
 従来のカメラが,銀塩フィルムを使って感光材の色感特性や粒子の細かさで画質を形成するのに対して,電子スチルカメラは、ビデオ映像の磁気記録を用いている.このため,電子スチルカメラでは、映像信号を磁気変換記録するための信号変換方式や,各信号のトラック上の記録パターン方式によって画質や解像度に違いが出てくる.
 規格統一されている記録信号は、輝度信号処理にFM変調を,色信号処理に2つの色差信号(R-Y・B-Y,注3)を作って,別々の中心波数でFM変調している.そして,線順次(1水平走査線おき)で1トラックに輝度信号と色差信号を多重記録している.
 輝度の変調信号と色差の変調信号は1トラックに多重記録されるが,2つの色差変調信号は互いに重なることがなく,1水平走査線おきに記録される(図2).
 多重記録されるのは、映像データだけではない。映像と同じトラックに,1トラック番号,2日付(年/月/日),37ィールド/フレームの識別,4メーカーが自由に設定できるユーザーズエリア――の4種類のデータが多重記録できるる(図3).トラック番号と日付の記録・再生は機器ごとに選択可能になっている.データ記録された内容は,データの再生機能を装備した機器であれば機種やメーカーを問わずに表示できる.ユーザーズエリアは、たとえば,文字・数字によるID番号を映像に付けたり,カメラで撮影した時の絞り値,シャッタースピードを記録したりといった応用がある.


注3 ビデオで用いられる色差信号と同じで,RGB信号と輝度,色差信号の関係を表す.R=Y+(RY),B=Y+(B-Y),G=Y-R-Bで表現する.

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音声記録は時間圧縮で3通り
 「スチルビデオフロッピーシステム」には、映像と組み合わせたり音声単独で背景音やナレーション,BGMなどの音声を記録・再生できる規格も盛り込まれている.
 ディスクが1回転する時間(NTSC方式では1/60秒)に、収録する音を圧縮して記憶する.マイクなどからの音声入力は,まずA/D変換していったんRAMに転送され,今度はアナログ信号に戻されて6MHzを中心にしたFM変調をして磁気記録される再生は,これと逆のプロセスを取る(図4).
 1トラックに収録できる音声は,時間圧縮率によって決められる.規格では,1トラック当り5/10/20秒の3通りが記録できるように,3種類の時間圧縮比が定められている.5秒のように圧縮率が低いほど原音に近い音質が得られる.|映像と音声は変調帯域が異なるので,同じトラックに記録できない.このため,規格では,映像と音を正しく組み合わせて再生するためのコントロールコードが記録できるようになっている.このトロールコードには,第52トラックュートラックを使う.コントロールコドを規定しているため,関連する映像と音は,隣接したトラックでなくても再生可能になっている.


ワープロ機などに使われるデジタルデータ記録
 2インチFDDは,ソニーや三洋電機,シャープなどが,すでに携帯型の日本語ワープロ機に内蔵して実用化している.これらの製品は、すべて「スチルビデオフロッピーシステム」のデジタルデータ規格に対応しており,このモードを利用することでデータ記憶が可能になっている.トラックパターンは、映像・音声と同一の50トラックを使い,1トラック当16Kbytesの容量を持っている.1枚のフロッピーの容量は,16Kbytes×50トラックで,合計800Kbytesになっている.*デジタルデータは,映像・音声との混在も可能で,プログラムと映像,テキストなどを組み合わせた記憶・再生ができ(図5).  データの転送速度は約10Mbit/秒で,既存のほとんどのHDDよりも高速だ.
高々800Kbytesの容量しかないメディアでHDDより高速だと言われてもと思った。
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低価格電子スチルカメラの特徴は?
 「スチルビデオフロッピーシステム」の規格をベースにした低価格の電子スチルカメラは,基本的な構造はどれもほとんど同じになっている。
 CPUに4~8bitの汎用IC(一部にはカスタム品)を使い,各制御用などに数個~数十個のICを用いている.受光部には,MOSやCCDといった撮像素子を搭載している.撮像素子の集積度は18~30万個と,ビデオムービーカメラに比べると多少低いものが使われている.
 画質は、レンズや回路によってもある程度向上させることはできるが,撮像素子によるところが大きい.たとえば,現在の30万個オーダーを2倍の60万個オーダーにすると画質も向上する.
 レンズは,現在のところ,ほとんどが固定焦点方式の単純なものだが,将来的にはオートフォーカスを採用したズームレンズを搭載したカメラの製品化が計画されている。
 水平解像度は,規格に新たに盛り込まれたハイバンド仕様に基づいた製品の場合では,記録・再生で300本,再生のみで400本を実現している(表3).
 記録機能と再生機能は,分離したものと1つの巨体に内蔵したものの2タイプがあり,それぞれに一長一短がある(詳細は製品紹介の項を参照).両機能を内蔵したものは機動性に優れ,バッテリ駆動の利点を生かして、屋外での再生も可能だ。従来のカメラの代替性が強いと言える.一方の分離タイプは,再生装置さえ持っていれば,記録装置がバージョンアトップされた時にそれだけを購入することができるため,将来的なコストパフォー|マンスが高い.また,分離タイプは,内蔵タイプに比べて再生装置に各種の付加機能を持たせることができる.
 画質は,ホワイトバランス機構を搭載している機種が多少よいようだ。特に,内蔵ストロボを使用した撮影時には,色潰れが少なく、輪郭がはっきりした映像が得られる。

当時の製品は液晶モニタは付いていないから今のように撮影してすぐ画像を確認するということは難しく、フィルムカメラのように再生装置のある場所に移動してデータを再生して確認せねばならなかった。
表3ハイバンド仕様の概要
映像記録輝度信号 ホワイトピーク周波数 9.7MHz
シンクチップ周波数 7.7MHz
周波数偏移 2.0MHz
記録電流 9MHzにおける最適記録電流
色信号 R-Y,B-Y色差線順次FM記録
磁気ディスク 厚さ40μm
トラック スチルビデオフロッピーシステムに準じる

パーソナルコンピュータとの融合は?
 電子スチルカメラは、映像をビデオ信号として出力しているので,再生はビデオ端子を装備したモニタを使用する.カメラ側の出力端子と,モニタ側のビデオ入力端子をケーブルで接続するだけで再生が可能だ。
 パーソナルコンピュータ側で電子スチルカメラの映像を取り込むためには,NTSCに対応したビデオ入力機能を装備したマシンや周辺機器があればよい.パーソナルコンピュータに画像として取り込めば,画像編集用ソフトなどを利用して編集・加工することも可能だ(下の実験例を参照). CD-ROMデータは,あらかじめスキャンした写真データを利用するケースがほとんどだが,電子スチルカメラを用いれば,屋外で撮影したデータをそのままコンピュータに伝送して画像データとして利用できる。
 映像・音声データとデジタルデータが混在可能な点を生かせば,2インチFDDを搭載した日本語ワープロ機では,スキャンデータの代わりに映像データを使うことで,より効率的なメモリ使用が可能になる.FM変調したアナログデータは,1枚当りわずか16Kbytesだが,デジタルデータであれば1枚当り数百Kbytes以上のメモリを必要とするからだ。
 もちろん,既存のビデオプリンタを使用して,テレビモニタで再生した映像をそのまま出力することもできる.
 さらに,ビデオ信号入力端子を装備した静止画テレビ電話では、電子スチルカメラで撮影した映像をそのまま静止画テレビ電話に送って,電話線を介して遠隔地に送信するといったことも可能だ。


テスト:コンピュータで画像処理をする
 電子スチルカメラで撮影した映像を,PC-9801RAで処理してみた.処理に使ったフレームバッファは,(株)デジタルアーツの「フレーム98」.電子スチルカメラのビデオ信号入号用ボードに同社の「CGビジョン98」も使用した.フレーム98は,ビデオ出力端子は装備しているが,ビデオ入力端子がない.このために,ビデオ入力端子を装備したCGビジョン98が必要になる.また,編集・加工用のグラフィックスソフトは同社の「彩子」を用いた.写真は,フレームメモリに取り込んでファイル化した後,彩子を使って細部の修正・加工をしているところ.
 電子スチルカメラの映像をマシンに取り込むためには,ビデオ信号の入力用端子が必要だ。そうした点では,現在の16~32bitマシンは標準装備していないため,そのほとんどが使いものにならない、かえって,AV指向の8bitマシンが使い良い.しかし,映像をファイル化した後の編集・加工となると,どうしても高解像度で処理能力が高いマシンが必要になるようだ。


ASCII1989(02)c03電子スチルカメラテスト写真_W520.jpg
ハードコピーの可能性は?
モニタで再生した映像は,そのままビデオプリンタで出力可能だが,従来のカメラと同じプリントサービスの可能性も各社で考えている.
 高解像度のカラーレーザーコピーやプリンタに2インチFDDを接続して、映像信号をデジタル信号に変換した後で出力するようなサービスが検討されているほか,富士フィルムが,すでに2インチフ|ロッピーからのプリントサービスを開始している。「スチルビデオフロッピーシステム」は、アナログデータとデジタルデータを同一のフォーマット内で混在可能にしたために,今後の展開が非常に楽しみな規格と言えるだろう.
参考資料:Still Video Floppy System Handbook(ソニー)他

今後の展開がどうだったのか確かめることもスクラップの楽しみだ。
各社製品紹介をスクラップする。
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ASCII1989(02)c06電子スチルカメラ写真3コニカKC-300_W417.jpg
ASCII1989(02)c07電子スチルカメラ写真4コニカKC-300_W349.jpg
ASCII1989(02)c07電子スチルカメラ写真5-6ソニーMVC-C1_W430.jpg
ASCII1989(02)c07電子スチルカメラ図1-2_W520.jpg
各社製品の仕様表
キヤノン
Q-PIC
コニカ
KC-300
ソニー
MVC-C1
記録枚数 50枚(フィールド記録)
撮像素子 1/2インチCCD 2/3インチMOS
集積画素数 20万画素 30万画素 28万画素
レンズ 11mm F2.8 12mm F2.8 15mm F2.8
撮影範囲 1.0m~∞
(マクロ撮影時は30cm~)
0.8m~∞ 1.5m~∞
測光方式 外部測光センサーとCCDによるフィードバックAE SPD中央重点分割測光 中央焦点ダイレクト測光
シャッター 機械式シャッター 電子式シャッター
シャッター速度(秒) 1/30~1/500 1/15~1/2000 1/60~1/500
連続撮影速度(コマ/秒) 3 20/6/2 9/4
ストロボ・ガイドナンバー 7 10 11
価格 Q-PIC:9万8000円
アクセサリキット:2万円
KC-300:9万9000円
KP-300:3万円
アクセサリキット:2万円
MVC-C1:6万9800円
MAP-T1:3万円
サイズ
(W×D×Hmm)
142×106×34.5 KC-300:114×144×57
KP-300:110×174×53
MVC-C1:144×106×56
MAP-T1:131×94×30.5
重量(g) 525(バッテリ含む) KC-300:520(バッテリ別)
KP-300:285
MVC-C1:450(バッテリ別)
MAP-T1:250

ASCII1989(02)c08電子スチルカメラ比較写真_W520.jpg
*電子スチルカメラからのプリントアウトは、キヤノンのスチルビデオプレーヤ「RV301」とビデオプリンタ「RP420」を使用,出力に際しては、1プリンタの下調節つまみを中立,2S端子は未使用,3メモリへのフレーズは行わない,4入力はフレーム入カーという同一条件で行った.


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