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TRONシンポジウム(月刊ASCII 1987年6月号8) [月刊アスキー廃棄(スクラップ)]

第2回TRONプロジェクト・シンポジウムの記事をスクラップする。

第2回TRONプロジェクト・シンポジウム
 「第1回目のシンポジウムの時の失敗にこりて,受付要員を10倍に増やした。にもかかわらず,たくさんの方々にお集まりいただき,今日も受付に長蛇の列ができてしまったことをお詫びします」
 予定開始時刻の午前9時30分を過ぎてなお受け付け待ちの列が続いているため,開会を遅らせる旨を告げる坂村健氏の声音には,どこか誇らしげな響きが混じっていたように思う.1987年3月31日,国会議事堂からほどないキャピトル東急ホテルに用意された第2回TRONプロジェクト・シンポジウムの会場には、予想を越える500名以上の参加者が集まった。日本電子工業振興協会に設けられたTRON協議会を舞台に,東京大学の坂村氏を中心とするグループと、ここに参加を表明した企業とによって産学共同で進められるこのプロジェクトの進行状況と成果は,シンポジウムを舞台に公開される.
 1986年11月4日,第1回のTRONシンポジウム開催.発表の2本の柱は、機器制御用でプロジェクト全体の中でももっとも先行しているITRONとワークステーション関連の技術体系であるBTRONだった.そして,第2回のテーマには,TRONプロジェクトの中核となるTRONチップとBTRONが据えられた.
■TRONチップ
 冒頭に立った坂村氏により,TRONチップの概要が初めて公開の場で明らかにされた.
 坂村氏によれば,TRONプロジェクトがなぜVLSI-CPUの開発という大きな課題を抱え込んだのか,言い換えれば既存の(あるいはこれから出てくるであろう)プロセッサを利用することを前提としなかったかの理由は3つ.
 第1に,既存の32ビットのマイクロプロセニッサが16ビットの技術を基礎としてその延長上に生まれたために,技術的な歪みを備えていること.
 第2に,フォン・ノイマン型の現在のコンピュータ技術はさらに磨きをかける余地を残しており,VLSI技術によってそのメリットを徹底的に活かしたものが90年代のコンピュータ技術の中核となると,坂村氏が考えていること
 そして第3に,異なった半導体メーカーが共通して対等な立場で使用できる,マイクロプロセッサの標準的な命令セットが,現在は存在しないこと、プロジェクトを通じてオープンな標準的命令セットが確立されれば,メーカーはその土俵に上がり,使用する命令セットを選び、独自の技術によってVLSI化することが可能となる.これによって,異なったチップ間でのソフトの移植はきわめて容易となりながら,チップ化の際の技術的優劣による競争の余地を残しうる.
 この3つの理由から,TRONプロジェクトにおいて90年代のVLSI技術を基礎とするコンピュータ体系を構想するとき,今までのCPUとの互換性のくびきから逃れた新たなるチップを開発することが不可欠である,とした.
 こうした基本認識に立って開発されるTRONチップの特徴は,坂村氏によれば以下の通り、
 第1に,ITRONとBTRON両OSの存在を前提とし,これをもっとも効率よく実行しうるものであること.
 第2に,アドレス・バス,データ・バス共に64ビット構成とするものを基礎にデザインし,実現するにあたってまず32ビットに落として開発する,という基本姿勢に立っていること.そのため,将来の48ビット,さらに64ビットへの拡張は容易に行われる.
 第3に,東大坂村研究室の開発した命令セットを複数の半導体メーカーが採用すること.これにより,TRONの謳い文句の1つであるオープンアーキテクチャが実現し,データ互換に加えてプログラム互換においても大きく前進しうる。
 さらに,従来技術との互換性を打ち切って新たにデザインすることで,スマートなアーキテクチャを実現し,命令の高速化,性能向上が可能となる、とした.
 続いて坂村氏による概説において,TRONチップの5段階のクラス分けも明らかにされた。
 TRONチップに要求される最低限の仕様を満たしたL0.32ビットTRONチップの標準タイプとなるL1.L1とほとんど同等ながら仮想記憶をサポートするためのMMU部分のみを除いたL1R.インデックス命令などの将来的な機能を盛り込んだL2.42ビット,64ビット型のLX.LOからLXまでのすべての仕様を満-たしうるLA.
 坂村氏によるTRONチップの概説を受けて発表を行ったのは,松下電器産業,三菱電機,東芝と,共同開発を進める日立製作所・富士通グループ.
 松下からは、32ビットTRONチップの設計コンセプトと開発に先立つ各種のシミュレーション結果,三菱からは,L1R仕様のTRONチップが,汎用,低価格を狙ってM32と名付けられて開発中であること、東芝からは,L1仕様のチップがTX3と名付けられ,1989年のサンプル出荷を目指して開発中であること.日立・富士通グループからは,L1を実現するチップがHF32の名称で開発されており,これ-を中心にDMAコントローラ,浮動小数点演算コ・プロセッサ,TAG-RAMチップ,割り込みコントローラなどの周辺LSIがHF32ファミーリーとの位置づけにおいて開発されていることが明らかにされ,今年末の商品化が噂されるHF32の開発の足取りの速さを印象づけた.
■BTRON
 午後のプログラムのテーマは,BTRON.その実現に向けて進められているマンマシンインターフェイス(MMI)統一プロジェクトに関する報告が進められた.
 リアルタイム性を重視し,ビットマップディスプレイ上でマルチウィンドウ形式によって実身/仮身モデルを実現するという次世代OSとしての目的のほか,BTRONでは理想的なマンマシンインターフェイスを異なった機種において統一的に実現するという課題も目指される.この日の午後の報告の統一テーマ,MMI統一プロジェクトとは,後者の実現を目指して進められている.
 MMI統一プロジェクトの原点は,坂村氏によってトップダウン方式で示された理想的なマンマシンインターフェイスのイメージである、氏はこのイメージを「TRON作法」と呼びさらにこれを,大本となる思想レベル,それに基づいて定められる設計方針レベル,そしてさらに細部に言及した仕様レベルにクラス分けして示す。
 こうして示されたTRON作法がBTRON・OSを乗せたTRONチップ・マシンで実現されれば理想,ただし,その最終目標に向けた第一歩として,MMI統一プロジェクトでは,既存のハードウェアを用いてMMIの統一にチャレンジし,この過程を通じて検証・実験を行いながら,仕様を確定する作業が進められている.
 90年代のピュアBTRON登場の一歩手前で,今年の暮れにも商品化が予想されるμBTRONは,MMI統一プロジェクトがユーザーに向けて送り出す最初の成果となる.μBTRON,それに続いて現存するチップを用いたBTRONを送り出すことになるこのプロジェクトでは,現在,ハードウェア,ソフトウェア双方からBTRONの統一化が推し進められている.
 ハードウェアの統一の対象とされるのは,以下の4つ.第1に,接続のためのコネクタ.第2に,装置などの接続のための電気的,物理的,およびプロトコルを含めた論理的インターフェイス.第3に,TRONキーボード.第4に,操作表示,取り扱い法,用語.
 ソフトウェア面では,プロジェクトを通じ,操作法,文書データ,コード体系などの形式が規定される.
 BTRONにおけるデータの互換性を目指した構造は,TAD(TRON Application Data Bus)と名付けられている.TADは文章と図形をデータ交換の基盤とし,これを解釈表示するための基本機能はOS自体に持たされている.そのため,文章と図形のデータはすべてのアプリケーションから使用できる。つまり,文章と図形は,BTRONの目指すデータ互換の最低保証となる.その他の付加的な情報,例えばワードプロセッサでいえば書式,書体,文字サイズなどは,「付箋」と名付けられたセグメントにまとめられる.
 TRONで使用する文字コードの体系についても,シンポジウムで初めて公開されたが,坂村氏が席上特に強調したのは,TRONには「外字」という概念は存在しないこと、究極的には,人類が歴史上獲得したすべての文字に対してコードを割り当てる,という壮大な課題をTRONは目指すことが指摘された.
 操作法に関する統一化作業に関しては,入力操作と基本エディタに関する報告が行われた。この報告により,BTRONではファンクションキーは原則的に使用せず,それに代わりTRONキーボードの[命令]キーと[操作を表す語句]の入力が用いられること.また,操作を表す語句を,連想文字に代える(例えば、挿入を「そう」にする)ことも可能であることが示された.BTRONにおける入力方式は,原則的に仮名.ただし,「ローマ字入力は推奨していないが,どうしても利用したいユーザのために規定をする」とされている.
 以上のMMI統一プロジェクトに関する報告は,坂村氏のほか,TRON協議会に設けられたBTRON技術委員会の幹事会社,沖電気工業,松下電器産業,東芝の3社のスタッフによって行われた.この日,別室に設けられた実演会場に,松下は実身/仮身モデルをサポートしたBTRONのデモ・プログラムを載せた80286マシンを展示.初めて公開されたBTRON試作機は、参加者の注目を集めた.一方沖電気も,個々のキーの形状を微妙に変化させた完成度のきわめて高いTRONキーボードを展示,すでにハンドヘルド型の斬新なデザインのモックアップを発表済みの東芝と合わせ,BTRON技術委員会の幹事会社3社が,商品化に向けて開発の先頭に立っていることを,強く印象づけた。
 プロジェクト全体の中核的存在であるTRONチップの実態と開発状況が明らかにされ,プロジェクトの顔となるBTRON開発の進行状況が示されたことで,TRONに対する期待は,今後いっそう増すと思われる.
(富田倫生)

私は、34年前きちんとこれを読んだのだろうか。きちんと読んだのならば、きっとTRONにかぶれていたはずだ。このとき私は、ただただ8086憎しと凝り固まっていた。互換性がそんなに大事かと思っていた。過去を捨て良いものを作り直すべきだと思っていた。
この記事を読んでみてはやり米国はTRONを警戒したのかもしれないと思った。結局パソコンは34年前からキーボードも必要に応じてキーを増やした位で変化はなく、ソフトウエアも良いものではなく、商業的に成功したものが標準となった。
互換性が大事だったことは歴史が証明した。私の思いが世間と違っていた。これが間違いというのなら私は間違えていた。
ASCII1987(06)d07写真キーボード_W415.jpg
ASCII1987(06)d07写真松下マシン_W389.jpg
ASCII1987(06)d08図TADデータ_W520.jpg

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