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ジョブスのNeXT Computer(月刊ASCII 1989年9月号5) [月刊アスキー廃棄(スクラップ)]

ジョブスのNeXT Computer Systemの徹底レポートがあった。
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ジョブスの作るコンピュータは皆オシャレだった。しかし、Apple IIは売れたが、Lisaは売れなかった。Macは売れたがこのNeXTは売れなかった。売れなかったマシンは両方とも性能が良すぎて価格が高かった。安物を作らねば大衆には支持されないということだ。

売れなかったがために知らないことが多いのでNeXTはスクラップする価値があると思う。
発表から1年、日本でもついに販売開始

 9月から,キヤノン(株)がいよいよNeXT Computer System(以下,NeXTマシンと略)の販売を開始する.アジア地域での販売に関してNeXT社と提携してから2ヵ月,米国での発表から実に1年近くが経過して,やっと実機が入手できるようになった。出荷は英語バージョンからだが、来年第3四半期には日本語のβバージョンを発表する予定だ。キヤノンはオペレーティングシステムなどのローカライズをすでに始めている.
 米国では,Businessland社が一般市場向けに販売を開始しており、売れ行きは好調だという.約20分で1台が完成するというフリーモントの製造ラインでは,生産が急ピッチで行なわれている。昼夜24時間体制で稼働したとしても,1日にわずか数百台しか生産できないNeXTマシンは,現時点で3000台程度が市場に出回っているにすぎない。一時は,注文してから最低で6週間以上も待たなければ入手できない状況が続いた。現在でも「待ち行列」は長くなる一方だという。編集部に到着したマシンのシリアル番号は2384.660MbytesのHDDユニットを内蔵している.
 本稿では,ハードウェアとソフトウェアの両面を,今月から2回にわたって徹底レポートする.Steven JobsがWozniakとともにApple社を設立して13年.我々にパーソナルコンピュータの素晴らしさを教えてくれた彼は,ワークステーションにどのような夢を託したのだろうか.

生産台数が「1日にわずか数百台」は逆に凄い。希少価値があるのでプレミアムが付くのではないかと思うほどだ。
本体

マグネシウム合金の匡体は頑丈そのもの

Jobsが乗っても壊れない?
 白地にNeXT社のロゴマークをあしらった梱包パッケージからNeXTマシン,17インチモノクロモニタ,レーザービームプリンタを取り出す(写真1).

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オシャレだ。それしか言葉が思い浮かばない。日本のパソコンのダサいこと(X68000を除く)。
 立方体の匡体は,マグネシウム合金のオールダイキャスト製。つや消しのブラックカラーは精悍な印象を与える(写真2).表面をコツコツとたたくと,がっしりとした金属製の音がする.プラスチック製の匡体に慣れたパーソナルコンピュータのユーザーには,威圧的ともいえるマスクだ。側面を一回りするように張り出した7枚の羽が,威圧感を助長している(写真3)。この羽は,CRTの側面やスタンドの背面にも配されている.

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 デザインは,JobsがMacintoshで初めて採用した西ドイツのフロッグデザイン社の手によるもの。同社の基本コンセプトである流麗なスリットが,フロントパネルのドライブ収納部分を覆っている.プラスチック製のロゴマークはレリーフ状に微妙な3次元処理が施され,引き締まった雰囲気の中に派手な演出を醸し出している.
 305mm角のキューブ形状は,人によって大きく見えたり,小さく見えたりとさまざま。事前に見ていると小さく感じ,初見では大きく感じる.どちらにしても,この中には,5.25インチフルハイトの大容量外部記憶装置2台,最大240Vを受けられる電源部,NuBus規格に準拠の4枚の大型基板がスッポリと収まる.
 重量は,光ディスクドライブ1台内蔵の最小構成で約13.1kg.それに660MbytesHDD1台を内蔵したフル装備で約16.8kg.数値上は重そうだが,持ち上げてみると意外にも軽く感じる。やはり,外観に威圧されているようだ。
 Steven Jobsは,NeXTマシンの第一の特徴に“頑丈”という点をあげている.その証明のために,マシンの上に乗ってピョンピョンと飛び跳ねながら「頑丈でしょう?」と語ったというエピソードもある。頑丈という点は,製品のすみずみに行き届いており、部品を吟味して使っていることがうかがわれる.匡体に合金を使用している効果は絶大で、その安定感は無言のうちに伝わってくるから不思議だ。オーナーは,最初にこの手触りと安定感を楽しむことになるだろう.ちなみに,熱による膨張/収縮で匡体が異音を発するようなことは一度もなかった。製品寿命が短いコンピュータ市場にあって,こうした頑丈さはマシン寿命の長さとオーバーラップする錯覚さえ与える.壊れやすいというイメージがつきまとうコンピュータの中では,傑出した作り方だ。
 オーナーが最初に悩むのは,多分,本体の設置場所だろう.フロアに置くには小さすぎるし,デスクトップでは威圧されて作業もままならない(慣れれば別だが).底面積はPC-9801クラスのマシンに比べて約30%も小さいから,デスクトップに置くのが最良かもしれない.ただし,一般的な弁当箱マシンのように,本体の上にCRTを置くという省スペース設置は不可能に近い。実際に置いてみるとニタ表示部はデスクトップから70cm近く上にきてしまう。目線のはるか上方だ。いくら座高がある諸氏でも,この高さは苦痛だろう.したがって,本体とモニタをピッタリと付けて設置した場合,約71cmの横幅スペースが必要になる。同様に奥行きは,約40cmほど必要だ。不細工なデザインなら話しは別だが,設置場所で悩むようなマシンはそう多くない。これもうれしい悩みといえるだろうか.

読んでいてワクワクするレビューだ。日電ほかのパソコンではこんな気持ちは味わえない(X68000を除く)。
ビス2本で主要ユニット は分解できる

付属の6角ドライバーで約5分
 何はさておき,本体を分解してみる.まず,梱包パッケージに付属の6角ドライバーを使って,本体背面の4隅にあるビスを回す。ビスは背面パネルに作り付けられており,これを緩めるだけでパネルは取り外せる。6角ドライバーは,光磁気(以後,MOと略)ドライブ用のディスクを緊急イジェクトするためにも用いる.
 背面パネルを取り外すと,中央に外部記憶部と電源部を収納したユニットが見える。その右側には,メイン基板が縦に差さり,さらにその右に1個と中央向かって左側に2個の合計3個の拡張スロットが口を開けている。つまり,メイン基板も拡張スロットに対応する基板の1枚ということになる.NeXTマシンは,オペレーティングシステムにMach(“マーク”と発音)を採用しているため,メイン基板を3枚追加してマルチCPUマシンとして動作させることも将来的には可能だ(詳細はJobsインタビューを参照)。もちろん,他の対応基板を差すこともできる。拡張スロットのバス規格は,当初,NuBusと伝えられていたが,バス形状がNuBusに準拠しているだけで,信号は独自規格になっている。このバスはNextBusと呼ぶ.
 メイン基板を抜いた後,先述の6角ドライバーを使って,本体と中央のユニット部を留めている2本のビスを外せば,各ユニットの基本的な分解は完了する。昨今のワークステーションは,SunMicrosystem社のSPARC Stationられるように,非常に効率的なユニット構成を採用している.NeXTマシンは,その最右翼にある1台だ。
 驚くべきことは,偉容を誇る匡体が3分割の構造になっている点だ(写真4).匡体内部の4隅には,奥行きの長さを持つ金属棒が渡されており、前面と背面の内側から匡体を締め上げている。この4本の金属棒の先端を6角ドライバーで緩めてビスを外すと,匡体は3個に分かれてしまう。もちろん,オーナーが3分割にできるメリットなど皆無に等しいわけで,これは単に製造上の構造として採用しているだけだ。マグネシウム合金ダイキャストの一体型ボディを作る製造方法やコストを考えれば,こちらのほうが理にかなっている.メーカーからすれば,驚くには値しないというよりも,やむを得ない解決法と見るのが妥当だろう.ただ,ドライブが発生する微振動に対しては,一体型よりも分割型のほうが共振に強い。オーナーにとっては,いろいろと驚くことが多いマシンだ。


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「何はさておき,本体を分解してみる.」そうだよね。パソコンを買ってまず内部のメインボードを見るのが楽しみだ。使う前に中のハードを見る楽しみはパソコンマニアならあるあるだ。
この記事は本当に読んでいて楽しい。同じ種類の人間として筆者に感情移入できるからだ。
 ちなみに,330/660MbytesのHDDは米国Maxtor社製,MOドライブはキヤノン製,電源部はソニー製である.Maxtor社製の大容量HDDは信頼性が高く,平均シーク時間も14.8msと高速だ.
 また、多少とも期待していた開発者たちのサインは,裏側のどこを探しても見あたらない.Macintoshの二番煎じはしないということか.

そういえばMacにはサインがあった。
FM-11,MSX,Mac(月刊ASCII 1984年4月号5)ASCII EXPRESS
でスクラップした。
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45個のチップで構成するメイン基板

目玉はICPと56001

 本誌昨年12月号の速報でレポートしたように,メイン基板は非常にシンプルなレイアウトになっている(基本スペックは表1を参照 略).JobsはAppleIIの開発時から,基板は美しいと感じるようなレイアウトであるべきだという独特の美意識を持っている.“The State of The Art"という彼の言葉は,匡体デザインではなく,実は基板デザインを指していることは意外に知られていない.Macintoshも美しい基板を与えられたマシンだが,NeXTマシンはそれ以上に整然とした美しさを持っている(写真5).

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この基板の美しさにこだわるのはマニア受けするところだ。
 メイン基板を構成するチップ数はわずかに45個(メインメモリを除く)。その多くはカスタムチップだ。主要なチップは5個.68030CPU(クロック周波数25MHz),68882コプロセッサ(同),56001DSP(Digital Signal Processor:クロック周波数25MHz),そして富士通製のカスタムチップであるICP(Integrated Channel Processor)とOSP(Optical Storage Processor)というプロセッサ群である。これらのうちハイライトは,56001DSPとICPの2個だ。
 56001DSPは,米国Motorola社が開発した88ピンCMOSタイプのプロセッサ.処理速度は10MIPS.高速モデムやイメ-ジ処理,音声認識/合成,高速ファクス/モデムなど,大量のマトリックス計算を高速処理するプログラマブルチップだ。その内部は,3つの実行ユニット(データ演算ロジック,アドレス生成,プログラム制御)から構成される.これらのユニットは平行処理が可能で、演算命令を含むすべての命令を2クロックサイクルで実行する.NeXTマシンでは,このスペックをもとにして,音声を8kHzのデジタルサンプリングでメール化できるNeXTメールなどを標準アプリケーションとしてバンドルしている.
 56001DSPは,他機種用にも拡張ボード製品として販売されている.しかし,価格は,Mac用で1500ドル以上と高く,対応する開発環境もまだ整備されていない.標準で搭載しているワークステーションは,もちろんNeXTマシンが初めてである.
 Mainframe on a chip(1個のチップに載ったメインフレーム)というニックネームが与えられたICPとOSPは,メインメモリにアクセスするI/Oチャネルのスループットを向上させるチャネル専用プロセッサである。各I/Oチャネルに対してI/Oプロセッサをレイアウトする手法は,メインフレームでは常識になっているし,パーソナルコンピュータでもDMA(Direct Memory Access)は珍しくない.しかし,ワークステーションでこれほど徹底してチップ化したのは,NeXTマシンが初めてだ。
 ICPは,12個のDMAチャネルを持っている.OSPは,このうちの2チャネルを使って外部記憶装置のデータ転送などを分担している(各チャネルの割り当ては表2を参照 略).ICPのスループットは32Mbytes/秒と高速.対象になるI/O機器はICPを介してメインメモリにアクセスすることで,処理能力を大幅に向上させている(図1 略).
 NeXTマシンの処理速度は5MIPS(1秒間に500万回の演算能力)と発表されている。この数値は,25MHzの68030を搭載した他のワークステーションと比べると同等のスピードだ。しかし、スループットは,他のワークステーションの平均値である20Mbytes/秒と比べると格段に速い。メインフレームが40Mbytes/秒程度とすると,ICPの威力も納得できる.ICPとOSPが要請される背景には,ソフトウェアの中核NextStepの処理が影響している.NextStepは,Mach上でほぼ完全なオブジェクト指向環境を提供するソフトウェア群だが,良好な動作速度はRISCチップでなければ得られないともいわれる.特に,画面処理を担当するウィンドウサーバや,I/Oチャネルのソフトウェア環境を設定するアプリケーションキットなどは,DisplayPostScriptを採用したことも手伝って、非常に高速な処理能力を要求される。こうしたソフトウェア側の事情が,ICPを必要としているわけだ。
 最新の汎用プロセッサと徹底したカスタムチップ化の組み合わせによって,NeXTマシンは高速処理を義務付けられたといっても過言ではない.しかし,Ver.0.9のオペレーティングシステムであるNeXTOS上でウィンドウサーバを動作させた印象は,68030ベースの他のワークステーション上のX-Windowに比べて速度が若干遅いという感じを否めない。Ver.0.8と比べても格段に速くなっているという印象はない.Ver.1.0の出荷に向けた最終のチューンナップがどの程度のスピードアップにつながるか,興味は尽きない。
 メイン基板に装備された外部I/Oは,全部で7個(写真6).上から,DSPポート(シリアルD-15ピン),RS-422ポート× 2(MacintoshコンパチのシリアルDIN8外部拡張用SCSIポート(D-25ピピン),LBP用ポート(D-9ピン),Thinwire Ethernetポート(IEEE802.3aコンパチ),モニタポート(D-19ピン)と並んでいる.このうち,DSPポートには56001DSP対応の各種計測機器やファクスなどが接続できる.


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ブートドライブとして見たMOドライブ

330/660MbytesHDDは不可欠か?

 ハードウェアで最も注目されるMOドライブは,NeXTマシンが標準装備している唯一の外部記憶装置(基本スペックとバンドルソフトは表3を参照 略),背面パネルを取り外すと,MOドライブがもう1台内蔵できるように接続用ケーブルが延長されており、その先端にはコネクタが宙に浮いている.ディジーチェーンで2台目のMOドライブが装着できるのは,フロントパネルのメディア挿入口が2個あることからも想像がつく。しかし,正式発表には盛り込まれていない。読み取り/書き込み/消去できるMOドライブだけを外部記憶として標準装備したワークステーションはNeXTが初めてだ。
 カタログスペックによると,平均シーク時間は,MOドライブの92msに比べて330/660MbytesHDDが14.8msと格段に速い。転送レートは,MOドライブの4.6Mbytes/秒に対して,両HDDは4.8Mbytes/秒とほぼ同じ数値。また,MOドライブ対応のブランクディスクを初期化してビルドするためには約3時間かかるのに対して,HDDは約1時間で終わる.
 次に,システムの起動時間を計測したところ,MOドライブの約2分30秒に対して,660MbytesHDDは約1分45秒だった。また,ログアウトしてから電源オフまでの時間は,MOドライブの約20秒に対して,660MbytesHDDは約12秒かかった.ちなみに,せいぜい20秒ほどで電源オフできるUNIXマシンは,そうざらにはない.驚異的な速度といってもいいだろう.さらに,標準バンドルのプログラミング環境であるInterface Builderの起動時間を計測した。結果は,MOドライブの約20秒に対して,660MbytesHDDは約10秒という数値を得た.シーク時間の差が歴然と表われた数値だが、実際に使用してみるとHDDは確実に速い。信頼性という点では文句なしにMOドライブだが,良好な使用環境という点ではHDDに軍配が上がる.資金に余裕があれば,HDD内蔵タイプの購入をすすめたい.NeXTマシンは,MOドライブとHDDの併用が可能だから,MOディスクのデータをHDDにそのままコピーして、通常はHDDから起動したほうがいいだろう.MOディスク(写真7)はあくまでバックアップ用途とメディア流通に限定するのが得策だ。ちょっと気になるのは,MOドライブの読み取り/書き込み/消去時に発生する音.耳に慣れていないせいだが,ガリガリ,ゴリゴリという音は,HDDが静かなだけに耳に残る.ちなみに,モーターや冷却ファンの回転音は非常に静かだ。


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MOドライブはPC-486GRで使っていたが、もちろんデータのコピーだった。ハードディスクに入りきらないデータをMOにコピーしていた。MOからブートするなんて使ってられないだろう。
17インチモノクロモニタはソニー製

6個の外部I/Oを装備

 MegaPixelと名付けられた17インチモノクロモニタは,ソニー製で,ブラウン管は東芝製を採用している(写真8).解像度は1120×832ドット(92dpi)で,1ドットあたり2bitの4階調表示(黒,白,グレイ2種類)を実現している.リフレッシュレートは68Hz(ノンインターレース)。サイズは408(W)×440(H)×354(D)mmで,重量は約23kg.

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 モニタ本体はプラスチック製だが,スタンド部分はマグネシウム合金を使っており,頑丈の一語に尽きる.スタンドの前面横に突き出た2本の足にはゴム製のキャップが付いており,モニタを前後左右に回すと,戦車のキャタピラのようにキャップが回転して移動性を高めている.また,モニタの上下角は,約±15度の幅で微調節が可能だ。
 背面には外部I/Oを6個装備している(写真9).右側から,モノラルマイク,キーボード,本体接続用,ラインアウト(左右),ミニヘッドホンの各端子が並んでいる.このうち,本体接続用コネクタは、電源ラインを始め各種の信号がまとめられており、本体とモニタは3mケーブル1本で接続される.また,金メッキを施されたラインアウト端子はステレオ出力に対応しており,16bit/44.1kHzのサンプリングレートを実現。このスペックは、CDのクオリティに相当するもの.もちろん56001DSPの使用を前提にしている.また,モノラルマイクはボイスメールなどに対応する入力用ライン.8bit/8kHzのサンプリングレートで音声入力ができる。この他に,モノラルスピーカも内蔵されている.


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 画面表示は4階調とは思えない美しさを実現している(写真10)すべてが立体的に見えるアイコンのデザインは秀逸で,視認性にも優れている.Macintoshの平面的なアイコンを見慣れた目には新鮮だ。このあたりのデザインは、追従する余地がない.

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Lisa,MacとともにNeXTもディスプレイはカラーではなかった。日本のパソコンのような色が付いたアニメ風のゲームはできないのがジョブスの作るパソコンだった。カラー化は必要だったと思うが、ジョブスはそう思わなかった。
2ボタンマウスとMacライクなキーボードは日本製

 キーボードは,ファンクションキーを装備しない85キー(写真11).サイズは,452(W)×33(H)×143(D)mmで,重量は1.25kg.一見するとMacintoshのキーボードに似ている。スペースキーの両横にあるCommandキーと,Z/X/C/Vの各キーの組み合わせは,それぞれUndo,Cut,Copy,Pasteという機能を実現する.また,Command+Wキーはウィンドウのクローズ,Command+QキーはQuit,Command+Pキーはプリントといった具合にMacintoshユーザーなら簡単にオペレーションできる.ただし,Commandキーが薬指の根本あたりに位置するため,ホームポジションでこれらの機能を実行するにはちょっと無理がある.また,キーボードの角度調節ができないため、机にベッタリと置いたままでキー入力をすることになる.

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 NeXTマシンは,電源のオン/オフをキーボードから実行する.本体,モニタ,LBPには電源スイッチがない。すべては,カーソルキーの上に位置するPowerキーで行なう.また,音量とモニタの明度も両隣の4個のキーで微調節するという,徹底した集中コントールを実現している.さらに,キーリピートの間隔もユーティリティプログラムのPreferencesで4段階に調節できる.
 2ボタンの光学式メカニカルマウスは,約170gという適度な重量(写真12)ユーティリティプログラムのPreferencesによって,左右どちらかのボタンをポップアップメニューの表示用ボタンとして使うことができる.キーボードと同様にマウスの移動スピードやクリックの応答速度は4段階に調節可能だ。マウスを使ったソフトウェアの起動は,基本的にダブルクリック方式を採用しているため,事実上はワンボタンマウスといえる.キーボードとマウスは,側面にゴム製のグリップがぐるりと張り巡らされており,保護対策と持ちやすさを考慮している。こまかい配慮だ。


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 キーボードはケーブルを介じてモニタの背面に接続し,マウスはキーボードの上側面に接続する.ちなみに,どちらも日本製である.

キヤノン製のエンジンを使ったLBP

解像度は400/300dpiが選択可能

 LBPは,キヤノン製のエンジンを搭載しており,300/400dpiの解像度をソフトウェアで切り替えられる.印刷速度は毎分8枚.対応する用紙はA4,レター,封筒の3種類。用紙カセットには150枚が収納できる.このクラスのLBPでは一般的なスペックだが,匡体サイズは363(W)×180(H)×423(D)mmと小さく,重量も17kgと軽い(写真13).

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 NeXTマシンは,システム全体にPostScriptを採用している.しかし,LBPにはPostScriptインタープリタを搭載していない.PostScriptが展開するページイメージは,すべて本体側で処理されてLBPに送られる。同様の方式は,IBM社がPS/2用のLBPに採用している.CPUやイメージ展開用メモリを搭載した処理ユニットを装備していないために,これだけの省スペース設計が可能になったわけだ.5年前3000ドルのMacintoshに7000ドルのLBPをサポートするという一大決心をしたJobsは,贅肉をそぎ落としたスリムなLBPを約3分の1の価格で製品化したことになる.

Jobsが考えたハードウェアは5年後に生き残っているか?

 米国の消息筋によると,NeXT社は上位機種として68040バージョンを計画しているが,将来的にはMotorola社のRISCチップ88000を4個使ったマシンを開発中だという.Ethernetチップも現行機種のカスタムゲートアレイから,AMDの32bitチップに差し替え,オプションのカラーボードにはTexas Instruments社の34020グラフィックプロセッサを検討している.VRAMは4Mbytesを実装して,1670万色同時表示を実現するらしい.そして,オペレーティングシステムはMach2.0を採用してマルチプロセッサをサポートするという.
 Jobsは,編集部のインタビューに応えて,「ソフトウェアは,15年間は使用に耐える」と断言している.また,「ユーザーにとっては,高速なハードウェアより充実したソフトウェアを提供するほうが大切だ」ともいう。彼は,AppleII,Macintoshの開発を通して,ハードウェアのスペック寿命がいかに短いか知った。それに対して,ソフトウェアは環境として整備されるに従い,寿命がどんどん伸びることも分かった.NeXTマシンは,NextStepというソフトウェア環境のプラットフォームでしかない,というのが彼の持論だ.NextStepの高い完成度は,それを納得させてしまう力がある.
 そうした持論があるにもかかわらず,しっかりしたハードウェア環境を構築したところに,Jobsのハードウェアメーカーとしての自負心がありそうだ。匡体をマグネシウム合金製にしたのは,このフォルムが同社の基底デザインになることを示唆している.そういう意味では,このデザインもソフト的発想に支えられている.ハードウェアは,前述のようにエポックとなるチップや技術を取り入れながら成長していくことだろう。その中核に位置するのが,ソフトウェア環境のNextStepであることは疑う余地がない.彼が,IBM社にNextStepをライセンス供与したことは,コア部分を一般市場に幅広く普及させたいという気持ちを如実に表わしている.
 ハードウェアを見る限り,NeXTマシンは,現在入手できる最もぜいたくな部品を取り入れているCISCマシンといって差し支えないだろう.オーナーは,ぜいたくな気分でプログラミングや文書作成などができるわけで,ステータスマシンとしての位置付けは完璧に近い.しかし,実作業で本当に使えるのか、そうした判断は別のレベルで語られるものだ.UNIXやMachという言葉さえ知らない人でも、十分に使えるマシンであることは確かだ。ところが,そうした人々のために環境を整備するプログラマにとっては,まだ画面の処理速度などチューンナップの余地は残されている.Jobsの“贈り物”は,これから正当な評価を受けることになる.文字通りの高性能ワークステーションなのだろうか.高等教育の現場で使えるマシンなのだろうか。種々の不安と期待が交錯する。来月号では,マシンの中核であるソフトウェア環境を中心に徹底リポートしよう.


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ジョブスのインタビュー記事をスクラップする。
 NeXTマシンの国内発表のために来日したSteven Jobsは,2500人の聴衆を前に1時間半にわたって熱弁を交えながらデモを繰り広げた.彼のカリスマ性は少しも衰えるところはなく、来場者の中には「Jobsが動いている」と興奮する声も翌日に行なったインタビューでは,NeXTマシンの展望を中心に話を聞いた.
編集部:NeXTマシンが発表されたばかりですが,次機種にはどのようなスペックを盛り込むのでしょうか?
Jobs:NeXTマシンにバンドルしたソフトウェアは,15年くらいの寿命がありますから,それに大きな変更を加える考えはありません.ハードウェアは、徐々に変わっていくでしょうね。私は,ハードウェアのスペックはあまり問題ではないと思っています。重要なのはソフトウェアの環境です。ハードウェアは少しずつ高速処理ができるよう手を加えていく計画ですが,バンドルしたソフトウェアには,生まれたばかりの技術が数多く盛り込まれています.デジタルライブラリやDisplayPostScriptなどがその例ですが,これらは少しずつ改善していくのに10年はかかるでしょう。まずは,ソフトウェア環境の整備が重要だと思います。
編集部:ソフトウェアを重視するきっかけになったのは,Macintoshの開発を通してですか?
Jobs:基本的には昔からソフトウェアを重視してきました。他のワークステーションメーカーは,多分,ハードウェア指向だと思いますが,NeXTはソフトウェア指向のメーカーです。デモンストレデーションでもお見せしたように,デジタルライブラリやサウンド,美しいグラフィックスなどが,マシンを購入してすぐに動作するようなワークステーションは他にありません。私がソフトウェアを重視している結果が,NeXTマシンという形になっているわけです.
編集部:NeXTマシンは'90年代のコンピュータという位地付けですが,今後のスケジュールは?
Jobs:カラーモニタなどを来年に発表します。続いて,サウンド関係も充実する予定ですし,もちろん高速マシンの研究もしています。ハード,ソフトの両面の開発で,私たちの'90年代は多忙を極めるでしょうね(笑い)。
編集部:PostScriptは,今後も業界標準として発展するでしょうか?
Jobs:Adobe社のJon Wornock博士に初めて会った日は,ちょうど彼がPostScriptを使って初めてプリントアウトに成功した日でした。それを見て非常に美しいと感じたことを覚えています。当時は,Apple社内でも同じような言語の開発を考えていましたが,PostScriptのほうが洗練されていたので,すぐに採用しました.DisplayPostScriptは,NeXT社が中心になって開発を進め,プリンタ関連はAdobe社が中心になって開発しています.PostScriptは,すでに世界的な標準規格になっています.IBM社や日本電気が採用しているし,Sun社も正式採用するようになるでしょう.
 PostScriptのような言語を作るのは大変な作業です.コンパチ言語メーカーのように全体の90%までは何とか作れますが、残りの10%がなかなか作れません。実際に製品として比較した場合,PostScriptと同等の機能を実現する言語は,一つも発表されていないのが現状です.今後は,他のメーカーもPostScriptを採使用していくことでしょう.
編集部:オペレーティングシステムにMachを採用したのはなぜですか?
Jobs:UNIXは,もともと,とてもパワフルでコンパクトなオペレーティングシステムだったのです.しかし,各種の機能を盛り込もうとして,カーネル部分はどんどん大きくなってしまいました。そのため,新しい機能を追加しようとすると,経験を積んだプログラマでなければカーネル部分は触れなくなってしまいました.これは危険なことです.'90年代に向けて、今後も新しい機能を追加し続けていくと,システムはどんどん大きく,複雑になっていくばかりです。それに比べて,Machは「デスクトップUNIX」と表現できるような,コンパクトで美しいカーネルを持っているし,高速のインタープロセスコミュニケーションを実現しています。通常のUNIXに比べて10倍という速さです.それに,マルチプロセッサ対応としては,最も完成されたデザインになっています.Machを選択したのは当然です.
編集部:Machはマルチプロセッサ環境をサポートしていますが,NeXTマシンにメイン基板を3枚追加して,マルチプロセッサマシンにする計画はありますか?
Jobs:もちろん.現在でも、3枚のメイン基板を追加してマルチプロセッサマシンとして使えるようになっていますが、ソフトウェアがまだ完成していません。多分、来年には発表できるでしょう.
編集部:MO(光磁気)ドライブは,ISO規格と互換性がないといわれていますが?
Jobs:互換性があるかどうかは分かりませんが,標準装備で製品化しているのはNeXTマシンしかないわけです.私たちが業界標準を作っているようなものですよ.Macintoshも最初に規格があって作ったわけではないし,IBMPCだってそうでしょう?製品が市場に出回ってから標準ができるんですよ.すでに販売しているという実績は,何よりも強い規格だと思います。
編集部MOドライブの未来はどうでしょうか。シーク時間が遅いようですが?
Jobs:われわれもまだ遅いと思います。少しずつでもいいから高速化していくつもりです。
編集部:同じようなメディアとして,CD-ROMの将来性はどうでしょうか?
Jobs:CD-ROMは死んでいると思いますよ。アメリカでは成功していません。Microsoft社がメディアを製品化していますが、誰も買っていませんよ.機構的にも遅いし,データ転送速度も遅いし、使いものにならないでしょうね。
編集部:最後に,AppleIIで育った読者に一言お願いします.
Jobs:昨今の業界内では,コンピュータの成長は足踏みしているといわれますが,コンピュータの歴史はまだまだ短いのです。始まったばかりだといっても過言ではないでしょう。美しいカラーグラフィックスやサウンドのハンドリングがやっとできるようになってきたのです。技術的な成長は,今後も著しいものがあるでしょう.だから,もうこれで終わりだ,などという技術は1つもありません。これから5年間で,コンピュータ業界はすばらしい進歩を遂げるでしょう。特に,パワフルなソフトウェアが続々と登場します.私たちは,パイオニアなのだという意識を持って進みます。あなたたちもそういう意識を持ち続けてください.


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ジョブスの考えの一端が見て取れた。NeXTがMOを採用したことに影響され、私もMOが出たらMOを使うようになった。
ただ、「CD-ROMは死んでいると思いますよ」はジョブスでも間違うことがあるのかと、いやジョブスはLisaをはじめ何回も間違えてきた。

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