SSブログ

超電導の世界 見えてきたジョセフソン素子(月刊ASCII 1987年8月号8) [月刊アスキー廃棄(スクラップ)]

 この号の特集は「超電導の世界 見えてきたジョセフソン素子」だった。
ASCII1987(08)d01超電導_W520.jpg
 超電導はいかにも胡散臭いものが多かった。勘違いとか、勇み足は先陣争いの科学技術の世界ではしょうがないが、ヤン・ヘンドリック・シェーンの捏造は酷すぎる。天下のベル研究所に在籍して2000年に52Kで超伝導を確認したという捏造論文が始まりだった。突飛な発表ではなく、理論予想と矛盾しなく、できたというならそうだろうという評価がなされる種類の発表だった。

 試験管内核融合もそうだ。フライシュマンとポンズが発表してから、世界中で追試を行ったのだが、どれだけの金が使われたか。そのあおりを食って、他の分野の研究予算にしわ寄せがいった。これは、科学の進歩を妨げたと言われてもしょうがない。彼らの功名心に走って発表したことで妨害を受けた研究者がいたのは確かだ。
現在、常温核融合の可能性が一部に再評価され実験がされているようだが論理展開が緩い。つまり、

従来の科学では説明の付かないほどのエネルギーが得られた

核融合反応が起きたと考えらる

ちょっと待て、核融合反応は従来の科学の範疇だ。私は以下のような論理展開であるべきだと思う

従来の科学では説明の付かないほどのエネルギーが得られた

従来の科学ではない新規の科学理論が必要だ

核融合派の論理は現在の科学理論では核融合の他に考えられない。だが、しっかり考えたのか。すべての可能性を考えつくしたのか。彼らの論理は背理法によるものだ。刑事ドラマに例えると、犯人はお前しかいないと断じているようなものだ。証拠を示しお前が犯人だというべきなのだ。
新規な発見では、勇み足の部分が多い。

 STAP細胞事件も同様だ。100回作った、200回作った?100回作ったのなら101回目を早く作れ!センセーショナルなプレゼンを狙って実験室で割烹着だと!?ふざけるな!当時私は腹立たしかった。怪しい発表は語るに落ちるということがよくある。追われてもいないのに自分からぼろをだすこともある。彼女がそうだと思ったのは「君の論文は過去、何百年もの歴史ある生物学を冒涜している」と言われたと自ら言っていたときだ。ああ、これは典型的な冒涜していると心の中で思っている人間が発することばだと。こういう人は今まで沢山見てきたと。思った。

 韓国の黄禹錫のES細胞もあった。韓国ではノーベル賞だと盛り上がったのだが、捏造だった。

 他にも捏造論文は枚挙にいとまない。

 まずは、あおり文から。

 “超電導”や“超伝導"という言葉が,新聞紙上や週刊誌をにぎわせている。その内容は,極低温で電気抵抗がゼロになる状態を示す化合物や酸化物を,各国の大学や研究機関,民間企業などが次々と発見したというものだ。発見された物質が騒がれるキーポイントは、超電導状態といわれる物理現象を示すための臨界温度が徐々に上がっている、という点だ。最近の例では,「米エナジー・コンバージョン・デバイシズ社は6月18日,摂氏32度で超電導状態を示す素材を発見したと発表した。同社によると,この超電導素材は,イットリウム・バリウム・銅の酸化化合物だという」(ロイタ-ES=時事)という報道が,一般記事に混じって頻繁に登場するようになった。
 これはもうこの時点で眉唾物。前述したヤン・ヘンドリック・シェーンが52Kで超伝導を確認したという嘘発表が2000年なのだから、これは酷すぎる。米エナジー・コンバージョン・デバイシズでググってもこの超電導には行きつかなかった。こうなると、そもそも、記事にあった発表がなされていたのかどうかに遡って疑問を持たねばならなくなる。
 絶対0度よりもはるかに高い温度で超電導状態を示す物質が,なぜ,今世紀最大の発見として騒がれるのか.本稿では,今月と来月の2回にわたって、超電導といわれる現象の基本的な解説と,コンピュータへの応用として,その去就が注目されるジョセフソン素子の開発状況などを紹介する.第1回目は,超電導のメカニズムを解明してみたい。
 このジョセフソン素子、ジョセフソンコンピュータはいつ完成したのか、市販されたのか、いつ稼働したのか?ASCIIの記事からはまるでもうすぐできるような印象を未来はこうなるという印象を持ってしまった。こういう実現しなかったものの記事をスクラップすると一定の傾向がつかめるかもしれない。それによって現在ある胡散臭い発表を嗅ぎ取ることができるかもしれない。
 この記事は歴史である。愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶとある。歴史を学び愚者にはなりたくないと思う。賢者に近づくのは無理だと思うから。

I

超電導への道

絶対零度への挑戦

 今世紀初頭の1908年7月9日,オランダのライデン大学の低温研究所教授,カメリン・オンネス(Kamerlingh Onnes,写真参照)が,決して液体になることはないだろうと考えられていた最後の永久気体,ヘリウムの液化に成功した.
 多くの物質は,温度を下げると気体から液体,固体へと相転移を起こす.ちょうど,水が氷へと相転移を遂げるように,気体は冷却することで液体になる.ヘリウムの液化は,19世紀後半までに実現されていた液体空気や液体水素を使ってヘリウムを冷却し、高圧の容器にあけた小さい孔からヘリウムを噴射させて,熱工ネルギーを奪うという方法で実現した.その時の温度は,絶対温度4.2K(摂氏-268.95度),液化したヘリウム量は60ccであった。
 これ以後,絶対0度(摂氏-273.15度)へ近づこうという人類のあくなき挑戦が始まる(ただし,絶対零度を実現することは不可能とされている).
Superconductivity Stateの発見

 実験に成功したオンネスは,液体ヘリウムを用いて、温度変化による金属の電気抵抗の研究を始める。
 当時,ドルーデやプランクといった科学者は,金属の電気抵抗は,金属結晶を形成する格子原子の熱振動によって自由電子が拡散するために起こるという、「金属自由電子説」や「量子説」を唱えていた.これらの仮説が正しければ,金属を極低温まで冷やすと,原子の振動は少なくなって,電気抵抗はゼロに限りなく近づくはずだ。オンネスは、この仮説に基づいて,液体ヘリウムを用いて水銀を冷却した.仮説どおり,水銀は温度の低下に従い,電気抵抗を減少させていった.
 1911年某日,オンネスは,水銀の電気抵抗に突然の変化が起こったことを発見する.約4.2K(摂氏-269度)まで温度を下げた時,水銀の電気抵抗が急激に下がり,完全に消失してしまったのである(図1を参照).水銀の中を流れる電流の電位差はなくなり、電気抵抗につきものの熱も発生しなくなった。絶対0度で電気抵抗がゼロになると考えていた彼は,この状態を“Superconductivity State"すなわち「超電導状態」と名付けて,2年後に,実験の成果をまとめた論文を発表する彼は,その後の実験で超電導状態を示すリング状の物質(超電導体)を作り,そこに電流を流して,10-25Ωcmという超低電気抵抗値を見いだしている.これは,物体が安定的に超電導状態を示す限り、半永久的に電流が流れる数値である.ちなみに,良導体といわれる銅の電気抵抗は,10-10Ωcmである.両者を比較すると,超電導体の電気抵抗値は,銅の電気抵抗の1000兆分の1を,さらに100分の1にした数値ということになる.超電導状態は,こうして人類に認知された.

絶対温度はどう算出する?
 摂氏温度では,水の凍る温度を0度に,沸騰する温度を100度に決め,その間を100等分している。水は日常生活に密接に結びつくものだが,自然界の現象一般から見ると,特殊な物質の一つにすぎない。これに対し、絶対温度は気体の圧力から導き出されている.気体は,どんな種類のものでも、温度が摂氏1度上がるごとに,その圧力は273.15分の1の割合で増加する.摂氏0度のときの圧力をPoとすれば,摂氏t度における圧力は,
P=Po(1+t/273.15)
 
となり,この関係において,t=-273.15のとき,気体の圧力はゼロということになる.圧力がマイナスになる.
 つまりtが-273.15以下になることはありえない.このことは,摂氏-273.15度以下の温度が存在しないことを意味しており,これによって絶対0度=-273.15度が決定される.つまり温度の限界点としての0度,摂氏-273.15度こそ物理的な意味を持つ0度なのである.普段われわれが使っている摂氏温度から絶対温度を求めるには,
T(絶対温度)=t(℃)+273.15
 
となる。単位はケルビン(記号はK)で表される.この単位は,19世紀のイギリスの熱物理学者,Kelvin卿の名に由来している.絶対温度で表すと,水が凍る温度は273.15K,水の沸騰する温度は,373.15Kということになる。

超電導と超伝導一どっちが正しい?

 「水銀は新しい状態に転移した.この状態は,(電気抵抗が完全にゼロという)まことに驚くべき特性のゆえに“超電導状態”とでもよばれるべきものであろう」
 これは,“Superconductivity State",つまり超電導状態に対する,「発見者」カメリン・オンネスの言葉である.日本ではSuperconductivity|は,「超電導」あるいは「超伝導」と訳されている.同じ意味を表すこれらの言葉は,現時点では,電気や極低温に関係する学会では前者が,物性物理など基礎的な原理を追求する方面では後者が用いられている.最近のかまびすしい状況の中で,用語の統一が図られはじめ,前者を用いる頻度が高くなってきているようだ。

II

超電導状態とは何か

 極低温において,ある物体の電気抵抗がゼロ(完全導体)になることを,超電導状態という.この定義は、オンネスが論文を発表して以降,基本的にはなんら修正が加えられていない.しかし,超電導状態には,もう1つ別の特徴がある.オンネス以来の定義である電気抵抗がゼロになる状態を、完全導電性(Perfect Conductivity)とすると,第2の特徴は、完全反磁性(Perfect Diamagnet-ism)と呼ばれるものである.物理的には,
(1) 完全導電性(電気抵抗がゼロ)
(2) 完全反磁性(超電導体内に磁束が入らない) の状態を示す物質を超電導体という.*1
 以下で,この2つの特性について見ていくことにしよう。
*1 この他に,ジョセフソン効果(量子効果)や同位元素効果といった現象も超電導体の特性になっている.特に,ジョセフソン効果は,厚さ10ナノmほどの絶縁体を超電導体でサンドイッチにすると,電子のトンネル効果によって電流が流れるというもの、1962年にジョセフソンが発見した現象.
1.完全導電性の検証

なぜ電気抵抗は起こるのか

 金属は,電気を通す良導体である。良導体の内部には,自由に移動できる電子(自由電子)が存在するために,そこでは電子とは逆方向に電流が流れることは既知の事実である,金属の自由電子は,原子に比べて104倍も移動できる範囲が広く,その数は,1cm2あたり1023個以上もあるため、電流は流れやすい.この自由電子の数が,良導体としての特性を示す尺度になる.
 これに対し絶縁体では,1cm2当たり1018個以下と,自由電子の数が極端に少ない.電導媒体となる自由電子が少ないために,絶縁体は電流を通すまでに至らないしかし,自由電子の数がゼロではないから,環境の変化によって良導体になる可能性や,部分的に電気を通すような現象(トンネル効果と呼ぶ)を示すことがある.実は、この絶縁体の自由電子量と超電導体やジョセフソン効果(次回で解説)を利用して,高速スイッチングを実現しているのが,ジョセフソン素子なのである。
 通常の状態(常電導状態)の金属は、基本の構成要素となる原子が,格子状に規則的に配列した結晶からできている.この配列が完全に保たれていれば,自由電子は,移動に際して何の抵抗も受けず,電気抵抗は示さないことになる.しかし実際には,この原子配列が乱れているため流れようとする電子は,原子に衝突して電気抵抗を生じてしまう.原子の配列が乱れる原因は,いくつか考えられるが,ここでは,代表的な例として,原子の熱振動について触れてみよう.

原子の振動が電子の流れを遮る

 規則的な格子状に配列している原子は,その1つ1つを見ると,自分の位置を中心にして細かく振動している.振動は,金属の温度に比例しており,温度が高いほど大きくなる.逆に,絶対0度では振動を停止してしまう.これが,原子の熱振動である。
 熱振動が大きくなると,原子と原子の間を通過しようとする自由電子は,原子の持つプラスの電荷によって散乱してしまうため、エネルギーを消費して電気抵抗が生ずることになる(図2を参照).
 他にも,原子の配列が乱れる原因はある.たとえば,格子欠陥という結晶の構造自体に原因があるものがそうだ。これは,規則的に配列している原子の結晶に,別の原子が入り込んで,結晶を形作っている格子が歪む状態である.
 1つでも異なる原子が入り込むと,その歪みは周囲にも影響を及ぼし,電子の流れは攪乱されてしまう.格子欠陥は,稀にあるケースではない、実際の金属材料は,生成過程で必ずこうした欠陥を持っている.格子欠陥は,温度とは無関係に起きるものだから,熱振動とは異なり,温度を極低温まで下げても電気抵抗は残る。

ASCII1987(08)d03超電導_図2_W517.jpg
電子がペアを組んで原子の乱れに挑戦

 原子の格子配列に乱れがある限り,電気抵抗は必ず生じる.それにもかかわらず,なぜ超電導状態は起こるのだろうか.
 この疑問に答えるには、半世紀の歳月が必要だった.1957年,米国の3人の物理学者,バーディーン(J.Bardeen),クーパー(L.N.Cooper),シュリーファー(J.R.Schrieffer)が,この疑問に解答を与えたのである.それは,次のような説明である.
 常電導状態にある金属では,プラスの電荷を持った原子が,格子状に配列されていて,その間を自由電子が勝手に動き回っていることは前述した.
 ここで,1つの電子が原子の格子配列の中を通過する場合を考えてみよう。電子はマイナスの電荷を持つから,格子配列の中を通過すると,周囲の原子はその電子に引き寄せられて近づいていく.しかし,原子は電子に比べて質量が大きく、その分だけ慣性も大きいため,電子に引き寄せられても,即座に動くことはできない(図3を参照).
 電子は,そうした原子の動きにお構いなく,格子配列の中を通り過ぎてしまう。電子が通り過ぎた後,原子がやっと動き始める。すると,原子が引き寄せられた場所は,周囲に比べて少しだけプラス電荷が高くなる(図4を参照).
 プラス電荷が高い場所には,当然,第2の電子が引き寄せられてくる.第2の電子が来ると,原子はこの電子に反発して元の場所に戻される.この時,最初に通過した電子と第2の電子は,原子の格子運動を介して,引力を持つようになる(図5を参照).そしてこれ以降,2つの電子はペアになって同じ速度,同じ方向に運動する.電子はマイナスの電荷を持つから,一般的には、クーロンの相互作用力によって反発するはずだが,反発力よりも引力が強いため,こうした現象が起こる.この1対の電子を、「クーパー対(ペア)」と呼ぶ(クーパーは,前述の学者の名前に由来している).
 超電導状態では,すべての電子がクーパー対を組んで一斉に行動する.クーパー対になる電子は、適正な相手を選ぶ.選ぶ相手は,運動量の和がゼロで,互いに逆向きの回転をしている電子である.つまり,クーパー対は,常電導状態で原子と衝突を繰り返している電子よりも,エネルギーが低いことになる.
 クーパー対のうち,どちらか一方の電子が原子にぶつかってエネルギーを消失すると,もう一方の電子が消失したエネルギーを獲得して、互いに補間し合いながら原子の格子間を移動するようになる.あたかも,衝突などなかったかのように移動するわけだ。このメカニズムが,超電導状態で起こるために,電気抵抗はゼ口のままで,熱も発生しない.
 この理論は,3人の物理学者の頭文字をとって「BCS理論」と呼ばれる.*2
*2 BCS理論は、完全に確立された理論ではない。特に,イットリウム・バリウム・銅などの酸化化合物を用いた最近の超電導体を,BCS理論で説明するのは無理だ,という主旨の論文を発表する物理学者もいる。そして,さらにその理論に反論する物理学者もいて、理論的にはいまだ混沌とした状態である.

ASCII1987(08)d04超電導_図3-5_W516.jpg
 クーパー対の電子は、サッカーボールを蹴っている選手にたとえることができる.2人がペアを組んでいれば,進路を妨害する敵がいても,ボール(エネルギー)をやりとりしながらスムースに前進できる(図6を参照).これが超電導状態である.常電導状態では,ボールを蹴るプレイヤーは1人のため,敵(原子の熱振動など)に妨害されてしまう.

ASCII1987(08)d05超電導_図6_W516.jpg
 超電導状態は,表現を変えれば,クーパー対が保持されている状態とも言える。もし,ここで温度が徐々に上がると,クー・パー対は熱のためにつぶされていく。そして,ある温度を超えると完全に解放されてしまう。その温度が,超電導における「臨界温度」である.
 3人の物理学者は,様々な金属元素の臨界温度を計算で求めた結果,その数値が実験と一致することを確認した.
 現在,BCS理論は,完全導電性というもっとも代表的な超電導状態の特性を解明する重要な理論になっている.

2. 完全反磁性の検証

超電導体内部には磁界がない

 超電導体の1つの特性は,完全反磁性を示すことである.完全反磁性とは,外部から加わる磁界に対して,それを打ち消すような逆向きの電流が流れていることを意味する.たとえば,磁石の上に超電導体を置くと中空に浮き上がってしまう.これは,超電導体の中に磁束が入れないからで,完全反磁性の特性を示す有力な証拠である(写真を参照).

ASCII1987(08)d05超電導_写真2_W515.jpg
 超電導体は,電流が流れるにもかかわらず,電気抵抗がないわけだから,内部には磁界も存在しない.こうした完全反磁性の状態を,発見者Meissnerの名前にちなんで「マイスナー効果」という.
 超電導体におけるマイスナー効果のメカニズムは,次のように考えられる.
 まず,超電導体に外部から磁界が加えられると,超電導体は,磁界が内部に侵入するのを防ぐように,表面に電流が流れて,逆向きの磁界を作る(図7を参照).表面に流れる電流の厚さは,物質によって多少異なるが,だいたい0.01~0.1ミクロンほどである.この電流は,もちろんそれ自身の周囲に磁界を作る.しかしその方向は,超電導体内部では、外から加えた磁界と逆方向になるので,互いに打ち消し合うことになる.表面に流れる電流も,完全反磁性の特性によって抵抗が生じないため、永久に流れ続ける.
 ただし、外部の磁界の強さを上げると,超電導状態は壊れる.この磁界の強さを「臨界磁界」と呼ぶ.

ASCII1987(08)d06超電導_図7_W486.jpg
自然界には2種類の超電導体がある

 前述のように,超電導体では,臨界磁界を超えるまで,磁束は内部に侵入しない.しかし,これは非常に純粋な金属だけに限られることで,合金や化合物で作られる実際の超電導体では、内部に常電導体が混じっているため、部分的に磁束が最初から侵入している。つまり,超電導体には、分類上,2つの種類があるわけだ。
 まず,磁束の侵入を完全に防いで,臨界磁界を超えた瞬間に,急に超電導状態が壊れる水銀のような物質は,「第1種超電導体」という.そして、磁界を加えると,部分的に超電導状態が壊れるような物質は,「第2種超電導体」という.
 現在騒がれている超電導体は、すべて第2種超電導体である。実用化という点から,この2種類の超電導体を比較すると,第1種超電導体は、内部に流すことができる電流の大きさが,臨界磁界によって制限を受けるために利用しづらいという欠点を持つ.
 その点,第2種超電導体は,臨界磁界が2つ(上部臨界磁界と下部臨界磁界)あって,部分的な磁束の侵入を許容しながら超電導状態を保持するために,実用化が容易になっている.
 では、なぜ第2種超電導体は,磁束が侵入しているのにもかかわらず,超電導状態を保持できるのだろうか?

第2種超電導体と蓮根の穴

 第2種超電導体で円柱を作ると仮定しよう.これに外部から磁界を加えると,磁束はすぐに内部に侵入する.その状態"は,図8に示すように蓮根の穴と同じような形になる.
 磁束が侵入した柱状の部分は,当然,常電導体になっている.この時,電流は超電導状態の部分を流れているから,電気抵抗はないし、熱も発生しない磁界が,下部臨界磁界を少しだけ上回る程度なら,この常電導状態の柱状部分は,増えることがない。
 しかし、磁界を徐々に強くしていくと,柱状部分はしだいに広がっていく。それでも、電流は超電導状態の部分を選んで流れ続けるため、超電導状態は保持される(図9を参照).
 さらに磁界を強めると,この柱状部分は,互いに接合して大きくなり,最終的には超電導状態の部分を浸食し尽くしてしまう(図10を参照).この時の磁界が,上部臨界磁界である.このように,第2種超電導体は,下部臨界磁界と上部臨界磁界との間に生じる混合状態を利用して,第1種超電導体よりも長い時間,超電導状態を保持できる.
 ここで注目すべきことは,上部臨界磁界が,下部臨界磁界に比べて非常に高いことだ最近のニュースで報じられる超電導体の中には、冒頭で述べたように,摂氏32度という室温で超電導状態を示す酸化化合物まで発見されている.これは,上部臨界磁界が,非常に高いという証拠である。

ASCII1987(08)d07超電導_図8-10_W351.jpg
いやだから、「最近のニュースで報じられる超電導体の中には、冒頭で述べたように,摂氏32度という室温で超電導状態を示す酸化化合物まで発見されている」の記事が発見できないのだが。
III

超電導状態が実現する世界

 超電導は,(1) 完全導電性,(2) 完全反磁性―という,2つの特性を示す状態によって成立している.ただし,その細部については,まだ不明の部分が多く,完全な理論的根拠を求めて実験,開発が行われている状況である.まさに,実践が先で,理論は後から追っかけてくるという図式だ。
 では,超電導の実用化は,どういう分野で考えられているのだろうか.
 完全導電性という特性を利用したものでは、(1) 発電機や核融合発電に用いられる強力磁石,(2) 電力貯蔵システム,(3) 超電導送電といったものが,研究・開発の途上にある。
 また、完全反磁性という特性を利用したものでは,(1) HSSTに代表されるリニアモーターカー,(2) 電磁シールド――などが,研究・開発の途上にある.

実用化に際して問題になる点

 超電導体の実用化が,遅々として進まないように見えるのは,現在の超電導体(ニオブ・チタン合金など)が,液化へリウムによって冷却してやらなければ,超電導状態を示さないからだ.液化ヘリウムが,ヘリウムガスを冷却して生成することは冒頭でも述べた.
 ところが,ヘリウムガスは、地球上でもっとも稀少な資源の1つで,その多くは天然ガスに含まれている.大気中には,たった5ppmしか存在しないし,地殻内部にも3ppmしか含まれていない.産出した上,採算ベースになんとかのせているのは、米国くらいである.絶対量が非常に少ないから,価格も1リットル1000円~1500円と高く,研究者からは“高級ワイン”というニックネームまで頂戴している。
 ところが,最近になって発見されている超電導体は,臨界温度が77K(摂氏-196度)を超える酸化化合物*3(イットリウム・バリウム・銅を使用)なのである.臨界温度が77Kよりも高いということは,液体窒素を冷媒にして冷やせば、超電導状態を示すということになる(液体窒素の沸点は77Kである).
 超電導体の真の実用化では,液体窒素の沸点77Kを超えられるかどうかが,以前からキーになっていた.液体窒素は,もちろん空気中の窒素から生成されるため、資源としては非常に豊富である。また価格も1リットル30~50円と低価格で、実用に十分供せる冷媒だ。
 ただし,発見されたイットリウム・バリウム・銅の酸化化合物は,すでに実用化されているニオブ・チタン合金のような安定した超電導状態は,まだ示していないから,すぐに実用化は難しい.しかし,少なくとも,77K以上の臨界温度を持つ超電導体の存在を確認できたことは,今後の展開にとって,非常に明るい材料である。
 米国IBMは,液化ヘリウムを冷媒にしたジョセフソン素子の開発を断念してしまったが,最新の情報によれば,東大の岡部助教授のグループは,イットリウム・バリウム・銅の酸化化合物を使って,もっとも難しいとされているトンネル型ジョセフソン素子の開発に,世界で初めて成功したという。
 次回は,もはや夢ではなくなった高温超電導体の世界と,それをコンピュータに応用したジョセフソン素子の基礎概念について紹介する.
参考文献
「数理科学」1987年4月号(サイエンス社)
「超電導とその応用」田中靖三(産業図書)
「超電導」太刀川恭治他(読売科学)
「超電導革命」牧野昇(日本実業出版)
「超電導パリティ別冊」(丸善)
「極低温と超電導」永野弘(啓学出版)
「超電導の基礎」岡田隆夫(電気評論)b 「強誘電体と超電伝導」日本金属学会編(丸善)b 「超伝導の科学」永野弘他(共立出版)
「世界百科事典」平凡社

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:パソコン・インターネット

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。