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超電導の世界 見えてきたジョセフソン素子(月刊ASCII 1987年9月号8) [月刊アスキー廃棄(スクラップ)]

 「超電導の世界 見えてきたジョセフソン素子」第2回をスクラップする。

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 前にも書いたが、高温超電導の「できた」という発表は胡散臭いのが多く、この連載も35年前はこれが事実だと考えられていたと理解すべきだ。俺はできた。お前ができなかったのは腕が悪いせいだと強弁できることが困ったものだ。実物を寄越せと言われてものらりくらりとかわし、挙句の果ては実験で消耗したと言われればどうしょうもない。
 分野は違うが免疫関係でもあったと思っている。昔、免疫動物を使ってある物質を免疫して、ある物質の特異抗体を世界で初めて作製した。その結果はこの免疫反応の実験結果写真やグラフです。と発表されても理論的にそうなるだろうなという発表ならそれは事実として支持される。再現しようにも免疫動物には個体差があるので毎回必ず同じものができるとは限らない。できた抗体を分けてくださいと言われても微量だからとか、(抗体は生ものだから)保存中に変質してしまいました。と言われればどうしょうもない。

 眉に唾を付けながらスクラップする。
 前回は,「超電導状態」と呼ばれる現象を引き起こす,極低温状況における超電導物質のメカニズムを中心に,超電導の基礎的な解説を行った.
 今月は、室温に近い温度で超電導現象を起こす物質の開発状況とその問題点などを中心に,超電導物質の代表的な応用分野として、もっとも注目されている「ジョセフソン素子」のメカニズムやその開発状況などについて探ってみよう.

室温に近いという点が既に胡散臭いのだが、スクラップを続けていく。

I

超電導体の特性

 本題に入る前に,前回のおさらいをしておこう。
 「超電導状態」は,オランダのライデン大学教授,カメリン・オンネスが,1911年に発見した物理現象である.金属などの物質を絶対0度(-273.15度)近くまで冷却すると,突然,その物質は電気抵抗がなくなり、内部に磁束が侵入できない状態となる。
 これを「Superconductivity State」,つまり超電導状態と呼び,この状態にある物質を超電導体という、超電導体は、電気抵抗を生じないため,その物質だけで閉回路を作って1度だけ電流を流すと,電流は半永久的に流れ続ける(計算では10万年以上という数値が出ている).また,超電導体は内部に侵入する磁束を拒むため,磁石の上に置くと浮き上がってしまう.これらの性質は,
(1) 完全導電性(電気抵抗がゼロ)
(2) 完全反磁性(磁界の影響を受けない)
として,まとめることができる.超電導体は,この2つの特性を必ず持っている.
 電気抵抗がなくなる原因は,1957年に米国の3人の物理学者,バーディーン,クーパー,シュリーファーが提唱した「BCS理論」によって,その大部分が解明された.BCS理論は,物質を組成する原子の格子配列間を,電子がペア(クーパ一対)になって一斉に移動するため,原子と電子が衝突した時に発生するエネルギー(電気抵抗)が吸収されて電気抵抗が消失する,というものだ。
 また,磁束が侵入できないのは、外部から磁界が加わると、超電導体の表面に電流が流れて、外部の磁界と逆向きの磁界を形成するためである.表面に流れる電流の厚さは,物質によって異なるが,だいたい0.01~0.1ミクロンといわれる.この完全反磁性の特性は、発見者の名前にちなんで「マイスナー効果」と呼ばれる.
 この2つの特性を利用した応用分野は広範で,すでに一部実用化されているものもある(これら以外にもいくつかの特性が認められているが,本稿では割愛する).
〔完全導電性を利用した分野〕
(1) 発電機や核融合発電に用いられる磁石
(2) 電力貯蔵システム
(3) 超電導送電
〔完全反磁性を利用した分野〕
(1) HSSTなどのリニアモーターカー
(2) 電磁シールド
  こうした応用分野がありながら,商業レベルで,超電導体がなかなか製品化されないのは,その動作環境が“極低温”に限定される,という一点にある.
 従来の超電導体(主にニオブ・チタンの金属化合物)は,絶対0度の近く(9K=摂氏-264.15度)で超電導状態になるため,液体ヘリウムを使って冷却してやらなければならない、ところが,液体ヘリウムを生成するために用いるヘリウムガスは,絶対量が非常に少ないことから,価格が1当たり1000~1500円と高く,供給地も米国に限られている.せめて、地球上に豊富に存在する水素から生成される液体水素の沸点(20.4K=摂氏-252.75度)よりも高い温度で超電導状態になる物質を発見できないか,というのが研究者の永年の悲願だった.液体水素で冷却できる超電導体が発見されれば,実用化への第一歩としては、大きな前進になるからだ。ところが,そういう物質が発見され始めたのである.
 少し長くなってしまったが,以上が前回のおさらいである.超電導の詳細なメカニズムについては,本誌8月号を参照していただくとして,さっそく今世紀最大の発見と騒がれている「超電導フィーバー」のまっ直中に飛び込んでみよう.


コラム記事をスクラップする。
超電導体を作るには?
 高温超電導体の開発レースが,これほど加熱したのは,その実験の簡便さによるところが大きい。新聞などでよく見受けられる「小・中学校の理科室にあるような実験用具で,最先端技術に参加できる」という言葉が,その方法をよく表している.
 実験の手順は,セラミックスの材料(酸化イットリウム,炭酸バリウム,酸化第2銅など)を安い瀬戸物の乳鉢で混合し,市販の小型の電気炉で焼くだけでよいのだ。その後,液体冷却しながら電気抵抗や,反磁性効果を調べるなど少し込み入った作業があるものの,このような簡単な実験,趣味で七宝焼を作るような感覚で,ノーベル賞獲得レースに参加できるのである。
 ただ,この実験にもいろいろな苦労と経験が必要だというのは、材料の混合の割合や,火加減――焼くときの温度や時間――といったビビッドな技術の部分である.これらの違いには,大学・研究所ごとの“秘伝”がいくつも存在するといわれている.
 しかし,この「下手な鉄砲」的なレースも鎮静化し,現在では理論的裏付け,応用分野への展開といった方面に,科学者たちの興味が移行しつつあるようだ.
 ちなみに,「超電導材料キット」なるものが数社から発売されて,人気を呼んでいる.フルウチ化学は,電気炉で焼結すれば超電導物質になる素材キットを,1kg5万円で販売している.さらに同社は,セラミックス系超電導体そのものを,魔法瓶やピンセット,磁石などとセットにして発売する計画だ。
まあ、こんな秘伝とかあるから、私はできたのにあなたができなかったのは腕が悪いからだが通じてしまう。

II

“高温”超電導体の発見競争

 本稿執筆中にも,『高温で動作する超電導体を発見』のニュースは,次々と飛び込んできている.超電導を研究テーマにしている大学の研究室では,昨年末から不眠不休の態勢を敷いて新物質の発見に全力を注いでいるところも多いという「徹夜明けの朝刊で新物質発見の記事を読んだ研究員が,あわてて同様の実験を試みたところ,その夜までには記事の記録を破ってしまった」というような,熾烈な発見競争を物語るエピソードもある.
 週刊朝日の編集部員が,2万円ほどの投資で臨界温度100K(摂氏-173.15度)を越える超電導体を発見できるほど,セラミックス系超電導体の生成は簡単である(カコミ記事を参照).そして,こうした手軽さが、一連の発見競争に拍車をかけている。「保険勧誘員のノルマ達成表のように、前日の結果を一覧表にして,毎朝発表する企業の研究所がある」ほどだ。「とにかく、どんな組成が,どんな結果を生むのか,まったく見当がつかない.人海戦術で,片っ端から組成を変えて実験している」というのが,現在の状況である.
 こうした新物質発見のきっかけになったのは,昨年の春、場所はスイスのIBM社チューリッヒ研究所である.同研究所物理研究部に籍を置くミューラーとベドノルツの両博士は,ランタン・バリウム・銅で構成される酸化物が,既存のセラ「ミックス系超電導体に比べて、格段に高い温度で超電導状態になることを学会誌に発表した.その時の臨界温度は約23K(摂氏-250度)で,これは,既存のニオブ3・ゲルマニウムの化合物が達成していた数値,23Kと奇しくも同じものだったのである。
 しかし,この論文は,すぐに大反響を呼ばなかった.原因は, (1) 発見した彼らの研究テーマが超電導ではなかった,(2) (1)に関連して,マイスナー効果を十分に確認できなかった,(3) ニオブ3・ゲルマニウムの化合物が,13年間という長期にわたって臨界温度のトップを独占し続けていたため,セラミックス系物質に注目する研究者が少なかった――などが考えられる。
 最初に,この論文に着目したのは,東京大学工学部の北沢宏一助教授のグループだった.彼らは,論文と同様の酸化物を使って,昨年暮に37K(摂氏-236.15度)という臨界温度を確認,同大学の田中昭二教授らと異例の記者会見まで行っている.しかし,この時点でも,“事の重大さ”を認めたのは,一部の研究者だけだった(ベタ記事の新聞報道が,それを物語っている).大勢は,半信半疑だったのである.ちなみに,37Kという臨界温度は,冷媒として液体水素が使えることを意味している.
 セラミックス系超電導体の発見が,世界的に認知されたのは,今年3月にニュ-ヨークで開催された「米国物理学会シトンポジウム」の席上である。前出の田中教授が,ミューラー,ベドノルツ両博士の実験を再確認したうえ,この超電導体の結晶構造まで明らかにしたのだ。この研究結果の公表によって、超電導フィーバーの火蓋は切って落とされた(カコミ記事を参照)。
コラム記事の表をスクラップする。
超電導体の発見年表
 セラミックス系超電導体の第1世代はランタン系で、30~40Kあたりでデッドヒートを繰り広げた.その後すぐに,ヒューストン大のチュー博士グループが,第2世代となるイットリウム系を発見し,90~100K付近での現象を確認した.現時点では,120~130K付近のイットリウム系第3世代から,イットリウム系にストロンチウムやフッ素などを混合し,室温で超電導現象を示し始めるという第4世代へと移っている。

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この表は信用できない。なんってたって室温で超電導だからもう35年前は無茶苦茶だった。
III

高温超電導体の組成

 現在,工業用超電導体として使われているニオブ・チタン合金やニオブ3・スズは,臨界温度が9~18Kと低く,冷媒には当然,液体ヘリウムを使っていることは前に述べた。
 これに対して,セラミックス系超電導体は,
(1) ランタン・バリウム・銅・酸素
(2) ランタン・ストロンチウム・銅
(3) イットリウム・バリウム・銅
などから組成される酸化物である.
 このうち,現在もっとも有力視されているのは、(3)のイットリウム系超電導体である。
 最初にイットリウムを使って実験をしたのは,米国ヒューストン大学のポール・チュー博士のグループである。彼らの作った超電導体は,臨界温度98K(摂氏-175.15度)を記録,初めて液体窒素の沸点77K(摂氏-196.15度)を越えた.続いて,中国科学院物理研究所が100K(摂氏-173.15度)を記録その後すぐに日本の科学技術庁金属材料技術研究所が,123K(摂氏-150.15度)という驚異的な数字を,イットリウム・バリウム・銅に,ストロンチウムやスカンジウムなど他の元素を加えた超電導体で達成している.
 最新のニュースでは、米国エナジー・コンバージョン・デバイシズ社が280.35K(摂氏7.2度),住友電工が300K(摂氏27.15度),モスクワ大学が308K(摂氏35.15度)という高温を,それぞれ記録しているが,組成物質は明らかにされていない。
 ただし,最後の3つのケースについては,物質のうち1%にあたる部分だけで電気抵抗がなくなっただけとか,マイスナー効果を確認できなかったとか、1週間後には超電導状態を示さなくなったとか,物性が非常に不安定だという報告が出ている.
 このため,研究者の中には,「超電導体と正式に認められない」として,過度の実験報告に警告を発するケースさえ出ている.しかし,部分的ではあっても,高温で超電導状態を示す物質の発見は価値がある,とするのが研究者の一般的な見解になっている。昨年の春にミューラー,ベドノルツの両博士が発見した超電導体が,「マイスナー効果が十分に認められない」という理由などから、半年以上も省みられなかった事実は,現在の状況を考えると皮肉ですらある.
 研究が進むにつれて,イットリウム・バリウム・銅の酸化物で作られた超電導体については,その結晶構造がわずかながら分かってきた(図1を参照).結晶構造は,銅と酸素で構成される3層のペロブスカイト(灰チタン石)型をしていると見られており,イットリウムやバリウムの層が,その間にサンドイッチ状に介在している.イットリウムやバリウムの層で,部分的に酸素が抜け落ちている謎は,まだ解明されていない(写真1を参照).つまり,なぜ高温で超電導状態になるのか,物理学的には何も解明されていないわけだ。冒頭で述べたBCS理論でさえ,高温超電導体のメカニズムを解明するには十分でない,と指摘する研究者もいるほどだ。ただ,部分的ではあっても,高温で安定的に超電導状態を示す物質の開発や,応用技術の分野では役立つ。
 また,まったく他の元素を利用することも重要な研究課題になっている.各国・各研究機関が,イットリウムやバリウム以外の元素から各種の酸化物を作って実験を行っている.しかし,こうした新組成については,最近,にわかに浮上してきた開発特許問題によって,おおやけにされる機会が少なくなりつつある.熱に浮かされたような発表ブームが一段落した後は、一転して秘密主義の横行というわけだ(カコミ記事を参照).
 “実験が先で、理論は後から”という構図を,そのまま地で行く分野だけに,今後の開発競争は,特許出願競争に“相転移"するものと見られている.
目が曇っていると状態だったと思う。超電導状態が完全に認められなくても「部分的ではあっても,高温で超電導状態を示す物質の発見は価値がある」には笑ってしまう。はい、はい、あなたにとっては価値があるのね。で、35年後それはどう価値があった?
コラム記事をスクラップする。
超電導は特許の申請ラッシュ
 セラミックス系超電導体の特許申請ラッシュが続いている.東芝が,線材加工技術や応用技術を含めて約80件,三菱や松下,日立,NTTなども同程度かそれ以上,住友電気工業にいたっては,なんと700件にのぼる特許を申請中だ。こうした申請ラッシュの背景には,米国IBM社やヒューストン大学のチュー博士らが申請した基本特許が,実用化の時点で日本企業の足かせになるのでは,という企業サイドの心配がある.少しでも,自前の特許件数を増やしておこうという考えだ。業界関係者の予想では,今回の超電導体に関する特許は,そのほとんどが米国側のものになる見込み出遅れた日本企業が,あわてているのも無理はない。
 ただ,特許として認められそうなのは,物質組成の部分だけに限定されそうだという観測もある.つまり,イットリウムが10%,バリウムが20%といった“調合”の秘技だけが特許として認められるということだ。
 それとは反対に,米国側の申請が,高温超電導体の包括的な特許かもしれない,という観測もある.どちらに転んでも損がないように,何でもかんでも特許にしてしまおう,というのが日本側の戦略だ。

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IV

実現した場合の応用分野

 100年近い間,満足な技術進展が見られなかった超電導体が,この半年あまりの間に,それまでのツケを相殺するような勢いで進歩したために,応用分野も急浮上してきた(カコミ記事を参照).
 理論的には可能だが,実用化はちょっと……と言われてきた応用技術が,今,脚光を浴びている.そこで,これ以降は、高温超電導体が実現したものと仮定して話を進めていこう(この仮定は、ひょっとすると明日にも現実のものになりかねない)。
 超電導体の主な利用分野は,冒頭で示したとおりである.ここでは,その中から完全反磁性の特性を利用した「超電導推進船」と,完全導電性の特性を利用した「ジョセフソン素子」について見ておこう。
1. スクリューがない超電導推進船
 日本鉄道(JR)や日本航空が開発中のリニアモーターカーや,神戸商船大学や川崎重工などが実験中の超電導推進船は,超電導体の完全反磁性を利用した,次世代の交通手段である。
 両者ともに,超電導体で作った磁石を利用して,それを動力に使うという基本原理は同じである.リニアモーターカー(図2を参照)が,超電導磁石のマイスナー効果を利用して車体を浮上させたうえ,リニアモーターで走行するのと同様に,超電導推進船は,海水に電流を流して,これに直角な磁場を超電導磁石によって与えてやることで動く。つまり,海水を後方に押し流すことで前に進むわけだ(図3を参照).だから、既存の船にあるようなスクリューはない.
 こうしたアイデアは,1966年に米国ウエスチングハウス社が,常電導磁石を用いた電磁推進船を作って基礎実験に成功してから,実用化レベルでの検討が始まった.超電導磁石を用いた世界最初の実験船は,その翌年に神戸商船大学と川崎重工が開発,動作することを確認している。そして1979年には,本格的な実験船であるST-500が完成している(写真2を参照).ST-500は,超電導体にニオブ・チタン合金を使い,これを線状に加工してコイルを作った.冷媒は,もちろん液体ヘリウムである。
 得られた推力は15ノットで,推進効率に換算するとわずか0.3%しかエネルギー変換をしていない推進効率を高めるには,磁場を強くして後方に流れる海水の量を増やしてやる必要がある。つまり,巨大な超電導磁石が必要になるわけだ.神戸商船大学の計算によれば,2000tクラスの超電導推進船を作る場合,超電導磁石のサイズは,内径が5m,総延長が120mになり,重量は2000tに達するという.つまり,排水量と同じ重量の巨大な超電導磁石が,必要になるというのだ。
 ただし,この数字は,ニオブ・チタン合金で作った超電導体と,液体ヘリウムを封入した巨大な冷却装置を想定したもの.高温超電導体でコイルを作った場合は,格段に小さい装置で推進効率が高められることになるはずだ.スクリュー推進の船だと,最大推進効率は60%が精一杯だが,超電導推進船は90%以上の推進効率が得られるという超電導体が商業ベースに乗った時,もっとも実用化が早いとされているのが,この超電導推進船である。音もなく、滑るように海を航行する船が登場するのも、そう遠い話ではないようだ.

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リニアモーターカーはいいけど、超電導推進船はまだまだだ。実験船はあっても実用船、商用船はない。「超電導推進船は90%以上の推進効率が得られるという超電導体が商業ベースに乗った時,もっとも実用化が早いとされているのが,この超電導推進船である。音もなく、滑るように海を航行する船が登場するのも、そう遠い話ではないようだ.」あんたのそう遠い話でもないは50年後か?100年後か?少なくとも35年後はダメだ。まあ、前半の仮定「超電導体が商業ベースに乗った時」がダメ仮定だったのではないか。
2. ピコ秒台のスイッチング速度を実現するジョセフソン素子

 ジョセフソン素子については,1983年6~8月号の本誌でも開発状況をレポートした。当時は,米国IBM社が開発の先端を走っており,日本でもNTT(当時の電電公社)の超電導研究室が,容量1Kbitのジョセフソン型メモリの開発に成功していた.ところがIBM社は,この後すぐに,「当面,実用化の見通しが立たない」との理由から,ジョセフソン素子の開発>を断念している.それまで同社は,超電導体に鉛を使って研究を続けていた.前一回も説明したように,第1種超電導体の鉛は,マイスナー効果が働く臨界磁界が非常に低いため、強磁界に対して抵抗力が小さいという特徴を持つまた,鉛は物性変化が激しいため、安定的な状態を保持し続けるのは難しい.つまり,IBM社は超電導体としては,もっとも実用化が困難な部類に入る物質を使っていたわけだ.
 一方の日本では、工業技術院の電子技術総合研究所をはじめとして,数多くの研究機関が,早くからニオブ・チタン合金に着目,これを使って小規模なジョセフソン・メモリを開発するなど,基礎技術を蓄積してきた.
 その結果,IBM社が撤退を表明した後は,世界一のジョセフソン素子技術を持つ国として,内外ともに認められる地位を確保していたわけだ.
 ところが今年4月に,IBM社ワトソン研究所が,液体窒素で冷却できる高温超電導体を薄膜に使って,ジョセフソン素子の開発に成功した,というニュースが入ってきた.これと前後して,日本電気もセラミックス系超電導体を使ったジョセフソン素子の開発に成功したことを発表して,状況はにわかに混沌の様相を呈してきた.
ジョセフソン素子とは?

 ジョセフソン素子は、ジョセフソン効果をスイッチングに用いた素子の総称だ。ジョセフソン効果は,1962年に英国ケンブリッジ大学の大学院生だったブライアン・D・ジョセフソンが,理論的な計算から予言し,実証した物理現象で,量子力学で言われるトンネル効果の超電導バージョンである.
 トンネル効果とは,運動している電子の行く手に障壁がある時,これを通り抜ける運動エネルギーを持っていない電子でも,ある条件下では,その障壁を“すり抜けて”しまうという非常に珍しい現象のことだ.障壁とは言っても,厚さは100Å(1Åは10-8cm)と非常に薄い.
 この現象を超電導体に応用したのが,ジョセフソン効果である.例えば、2枚の薄膜状になった超電導体の間に,厚さ50A程度の薄膜状絶縁体をはさんで電圧をかけてやる(このサンドイッチ構造をジョセフソン接合という).通常であれば,絶縁体が間にあるために,電気は絶対に流れないはずだが,前述のジョセフソン効果が働いて,絶縁体の中を電気はすり「抜けてしまう、あたかも,絶縁体などなかったかのようにである(図4を参照).この場合,すり抜ける確率は,絶縁体の厚さに関係している.厚さは、薄ければ薄いほどよい.
 この現象を利用して,電気が絶縁体をすり抜けた時は「ON」,すり抜けない時は「OFF」という,「1」と「O」のスイッチングに変換するのが,トンネル型ジョセフソン素子の基本原理である.ジョセフソン素子の作り方は、この他にも5種類以上あるが,もっとも実用化に適しているのは,上記の方法だと言われている。
ジョセフソン素子のメリット

 既存のシリコン素子よりも構造が複雑なうえに,超電導体まで使わなければいけないジョセフソン素子が,どうして,注目されるのか、それは,
(1) スイッチング速度(動作時間)が,シリコン素子に比べて格段に速い
(2) 消費電力が極端に低く,熱も発生しない
といった理由があるからだ.
 S-RAMなどのシリコン素子と比べてみると,動作速度は約50倍と高速で,消費電力は1000分の1以下に抑えることが可能である.この数値は,ガリウム・ひ素素子やHEMT(高速電子移動素子)といった常温高速素子よりも優れたもので,それゆえに実用化も切望されているわけだ。
 ちなみに試作段階では、工業技術院電子総合技術研究所が,ニオブ・チタン合金(冷媒は液体ヘリウム)の薄膜状超電導体を使って、消費電力0.1マイクロワット,スイッチング速度5ピコ秒(1ピコ秒=1兆分の1秒)という論理回路を開発している.また,最新のニュースによれば,同じ電総研が,論理演算や加算作業を行うALUを,ジョセフソン素子を使って開発している.このジョセフソン素「子は,純ニオブの超電導体の間に酸化アルミニウムの絶縁層をサンドイッチしたものだ.
ジョセフソン素子の問題点

 ジョセフソン素子が実用化されるまでには,乗り越えなければいけない大きなハードルが2つある.
 1つ目のハードルは,高温超電導体を発見すること.これは,すでに述べてきたように,現実のものになりつつある.室温で動作する超電導体を使って,回路上の全部の素子を作れば(つまりジョセフソンコンピュータを作れば),既存の大型コンピュータなみの高速処理マシンを自分のデスクトップに置くことも夢ではない.そのうえ,発熱はほとんどないため,熱暴走も起こらない.
 2つ目のハードルは,ジョセフソン接合の接点となる絶縁薄膜の形成技術である.なにしろ,厚さが数10Åという絶縁薄膜を,これも厚さが数10Åの超電導体でやんわりとサンドイッチしなければジョセフソン素子は実現しない.たとえ,安定的に動作する高温超電導体が発見されたとしても、ピンホールが絶対にない絶縁膜や超電導体を作れなければ,確実な動作は望めないのだ。セラミックス系超電導体が,こうした薄膜形成技術に耐えられるか,絶縁薄膜を損傷なくサンドイッチできるかどうか、これは、ターゲニットになる超電導体がまだ発見されていないだけに,未知の領域と言える.
 現在は,目的の物質にアルゴンなどの不活性元素をぶつけて,物質からはね返ってきた原子を使って薄膜を形成するスパッタリング法が,もっとも一般的で,薄膜形成技術としても最有力視されている.螢光灯を長く使っていると,その量端が黒ずむのは,スパッタリングによる薄膜形成現象そのものである.
 電総研は,最近,「クロス・ライン・パターニング」(CLIP)と呼ばれる微細加工技術を使って,幅が0.5ミクロン(1ミクロン=1000分の1mm)という微小ジョセフソン素子を開発している.CLIPは,スパッタリング法を応用した加工技術だ.その工程は,まず,縦方向に走っている超電導体をスパッタリングにより薄膜形成し,次にその上部に絶縁薄膜を同様に設け、最後に横方向に走っている超電導体をスパッタリングによって薄膜形成してやる(図5を参照).これによって,縦方向に走る超電導体と横方向に走る超電導体の交差(クロス)する部分に,絶縁薄膜がサンドイッチされる構造になる.この微細加工技術は,まだ開発段階だが,実用化されれば動作速度が10倍以上向上すると見られている.
 他にも,スパッタリング法の応用技術はいくつかあり,どれも,ある程度の成功を収めている。
2010年にはCrayがあなたの机に

 問題点として提起した2つのハードルは,高温超電導体の発見という宿題が前提になっている.しかし,大方の研究者の予想が,2010年までには液体窒素の沸点をクリアするような超電導体が実用化される,というものだったことを考えると,その誤差は,少なく見積もってもすでに15年ある.2つのハードルのうち,|1つ目のハードルが,すでに15年分稼いでいることは,2つ目のハードルにとって好材料である.
 先にも述べたが,スパッタリング法の応用技術の確立は,高温超電導体の発見より多少とも進展しており,1つ目のハードルよりは高くなさそうだ.
 ひょっとすると,23年後の2010年には,|デスクトップサイズになったCrayX-MPが,あなたの机上にひょっこりと置かれているかもしれない.
 安定的な動作をする高温超電導体を発見することは,それほどインパクトを持った事業になりつつある.

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35年後の未来から見ると笑ってしまう。ジョセフソンコンピュータなんかなくたって家庭用パソコンがスパコンのCrayを越えている。
Core i7 (Sandy Bridge) が 158.4 GFLOPS だ。
Cray X-MP(Cray Research) は 800MFLOPS だもの。
笑ってしまうのも無理はないだろう。
基本的にこの記事は実現しなかったことについて遠くない将来実現すると予想し、ジョセフソン素子がなくとも20~30年後に実現したことをジョセフソン素子とかの技術がなければ実現しないだろうと予想したことだ。原因については、自分の注目している技術には希望的予測をしてしまいその反動で他の技術の進歩を低く見積もるためだと思う。私は、コンピュータ業界とかは、こうなって欲しくないという未来ばかり実現したので、期待というものは裏切られるものだと思っている。

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